洋上にやぐらを建て その上部にデッキを作って装置を置き、海底から原油やガスを採掘する設備を掘削リグと呼びます。写真は中国の掘削リグで、産経新聞によれば 中国は「動く」領土と言い切っているそうです。傍若無人な態度ですが拡張主義の面目躍如といったところですね。
ブログの話題にしたいのは、中国でなくて、掘削リグの方です。むかしは日本でも作って輸出していました。一般にはなかなか知られていない経済活動ですので、経験したことを書いてみます。
時代:1980-1990
ビジネス環境:造船会社は円高により利益を得にくい時代にはいりつつありました。海洋事業部では掘削リグを製作して輸出していました。1基あたり50億円~200億円もする大型商談なのです。
ヨーロッパ北海などの気候は厳しく、マイナス20度-30度の低温では、脆性破壊というのですが鋼(はがね)はガラスのようにバリンと割れてしまう現象が生じます。それを防ぐための技術が必要で世界中のどのメーカーでも作れるというものではなかったのです。
ぼくの参加したプロジェクトでは、
オーナーはフランスのエルフという石油会社でした。エルフが日本の造船メーカーに発注し、受注会社は幹事会社となって製作を分割し 同業他社に製作を依頼しました。工期が短いので一社だけでは無理なのです。横浜の幹事会社の事業所を拠点として、広島、西条、大分、八幡にある事業所でいっせいに製作が開始されました。広島に滞在し、水中翼船に乗って西条になんどもなんども行きました。
北米のニューファンドランド沖で脆性破壊のために掘削リグが倒壊し200人くらいの命が奪われた事故が記憶に残っているころでした。損害保険の保険金額を低く抑えるためにはサーベイヤーと呼ばれる人々が製作を監視し、製品の認定書をもらっておかなければなりません。ロイズ船級協会とか日本海事協会とかのようなところが認定書を発行していますが、ぼくのプロジェクトではノルスケベリタス(Norske Veritas)というところからサーベイヤーが派遣されてきていました。
彼らの検査はとても厳しいものでした。ヤグラとなる鋼管の表面にキズがないかどうか一日中工場に入って 虫眼鏡で見るようにして 調べていました。それも全数検査をしていました。
このプロジェクトでは、分割製作された掘削リグは、フランスで最終的に組み立てられ船で曳航して北海まで持ってゆかれました。
完工式では、パーティ会場に両国の国旗が飾られ関係者がつどいとてもはなやかなものでした(リピートオーダーを得たいために行っているメーカー側の行為)。
国際プロジェクトはある意味とても華やかなところがあります。国境が狭くなったいまでも基本のところは変わっていないのではないでしょうか。天然資源の開発、漁業、農産品獲得のプロジェクトはますます海外で盛んになるのでしょうね。