ヴィヴァルディ「ピエタ」by ジャルスキー
稀代のカウンターテナー、フィリップ・ジャルスキーによる表題の新譜が昨年10月に出ていたのに気づき、彼の他のCDとともにまとめ買いで注文しておいたところ、数日前に届きました。CDタイトル副題にSacred works for altoとあるように、今回のアルバムはヴィヴァルディの宗教作品を集めたもので、アンサンブル・アルタセルセとの共演によるヴィヴァルディの録音としては多分2005年のカンタータ集以来でしょうか?ワクワクしながら封を切り、早速拝聴です。冒頭のトラックの再生が始まるや、「待ってました!」という感じで素晴らしい美声が響き渡ります。収録されているのは「Clarae stellae, scintillate明るき星々よ」(RV625)、「Stabat Mater悲しみの聖母」(RV621)、「Filiae maestae Jerusalem悲しめるエルサレムの娘たちよ」(RV638)、「Longe mala, umbrae, terrores 遠く退くがいい 罪と影、恐怖の数々よ」(RV629)、「サルヴェ・レジーナ」(RV618)など。これらに加えて、声楽なしの協奏曲(RV120)も1曲含まれています。(邦題は国内版PRからパクったもの。)ヴィヴァルディの時代、宗教作品(教会音楽)といえば依然としてStile Antico、つまりパレストリーナに代表される対位法的多声音楽の様式で書くのが常識だったようですが、これらの作品はそんなことはほとんどお構いなし。さすがにオペラアリアなどよりは多少控え目であるものの、いたるところでヴィヴァルディ節が全開です。亭主はCDの副題を見て、そういえば2011年の初来日公演(このブログでもご紹介)のお題が「Sacro 聖とProfano俗」だったことを思い出し、当時のプログラムをひっくり返して見ると、前半Sacroの部の最初の曲がRV629のモテットでした。(岸純信氏によるプログラムの解説記事では表題が「闇の恐れのあまりにも長く」と訳されています。)すっかり記憶の彼方に飛んでいましたが、導入部の強烈な全奏からしていかにもヴィヴァルディ、という感じで今度こそは耳に残りそう。これ以外の作品のいずれもジャルスキーの美声を十二分に楽しませてくれます。ところで、アルバムタイトルの「ピエタ」とは、どうやら「赤毛の司祭」ヴィヴァルディが長年にわたって関係を持っていたヴェネチアのピエタ慈善院から取られたようで、収録された作品は慈善院や隣接する教会での演奏された(かもしれない)、ということのようです。ちなみに、亭主がゲットしたこのCDのEUR盤にはおまけのDVDがついており、リージョンコードによる制限がないパソコンのDVDプレーヤーでは見ることができますが、約20分のビデオ映像には、パリの教会での収録シーンに加え、何とジャルスキー本人がヴェネチアを訪れてピエタ慈善院にゆかりの場所を訪ね歩き、解説を行っていると思しきシーンがふんだんに盛り込まれています。あるシーンではサン・マルコ広場にほど近いホテル「メトロポーレ」の中にあるバーカウンターに立ち、このホテルがピエタ慈善院の跡地に立っていることなどを話している風でした。とはいえ、ナレーションはフランス語で他言語の字幕は一切なし、フランス語は基本的にチンプンカンプンな亭主には残念ながらほぼ猫に小判。(このCD、高価な国内盤もあるようですが、おまけのDVDは付いていない?誰か字幕をつけてくれぇ〜)なお、アルバムジャケットの写真にジャル様とともに写っているのは、どうやらピエタ慈善院で「少女たち」が演奏する際に会衆から顔がよく見えないよう、バルコニーと客席の間に置かれていた(装飾が施された)グリルのようです。