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テーマ:洋楽(3359)
カテゴリ:ディープ・パープルファミリー解説
ディープ・パープルにトミー・ボーリンが初めて関わる、重要なアルバムです。
そしてパープルのなかでも極めて特異な位置づけのなされる一枚。 さて、アルバム「ストームブリンガー(嵐の使者)」を最後に、パープルの看板プレイヤーであるリッチー・ブラックモアが脱退したとき・・って30年も前のことですが、あの時は私も周りの仲間も、本当にびっくりしました。 なぜまたこのような遺憾な事態に? ある本によると'STORM~'の中にすでにその答えは見出すことができるといいます。 パープルがあまりにも、あまりにもブルース、ソウル色を強めすぎて彼の持ち味である暴力的なギターが浮くように・・いや、弾くことができなくなってしまっていたというのです。 確かに、こういうギターならリッチーよりうまく弾けるギタリストはゴマンといるでしょう。 彼は彼の持ち味を活かしてこそヒーローなのだから。 しかし、おかしな話です。 フリーで一世を風靡した、ポール・ロジャースをボーカルに据えようとしたことからもわかる通り、パープルをブルース・フィーリングのある新しいハードロックにしたがっていたのは当のリッチー先生あなたではなかったですかっ!(当時の気持ち) ボーカルにデヴィッド、カヴァーデイル、ベースとセカンド・ボーカルにグレン・ヒューズを迎えたということも、まさにそういうことでしょう。 現にメンバーチェンジ後の第一作である「BURN」でも、タイトル曲・チューンがあまりに良くできたハードロックだったので他がふっとんでしまっていますが、実はこの時点でずいぶんとブルース、ファンクに寄ってきていて私はこのころからすでに不満たらたらでした。 リッチーにとってもそのへんが早くも限界だったかもしれません。 そして、さらにデビカバ・グレン一色となった'STORMー'に至っては・・さすがに彼もこれでは自分が生息できるサウンド環境にはないと思ったに違いありません。 このときのタイトルチューンの♪テレレ~ンという弛緩したギターソロが雄弁(?)に物語っています。 とにかくもうこんなパープルには耐えられん! それはあなたの蒔いた種。 そうは言われても後のフェスティバル。 ええいっ!とばかりにパープルを飛び出した彼は何をしたか。 今度は手っ取り早いのはこの方法じゃ!とパープルの前座をしていたエルフを乗っ取り(ア~レ~そんなご無体なっ!)、自分自身を再び輝かせるためのバンドに変身させたのでありました。 「RAINBOW」の誕生です。 もう彼に迷いはありませんでした。 ひたすら自分のスタイルを貫けばいいのですから。 このバンドは1作目からパープル・ファンから喝采を浴びましたが、彼が本領を発揮するのはむしろ2作目以降でした。なにしろ一作目はほかのメンバーの力が低すぎました。 アルバムを作るたびにメンバーをばっさばっさと切りながら目覚しく進化し、新しいファン層もどんどん拡大していったのでした。 この転身はどんな意味においても大成功だったと言えましょう。 さて、残ったパープルの転身は・・音楽的には大成功、商業的には大スベリでした。 リッチーに代わるギタリストなんて・・。 誰もがそう思うなか、白羽の矢が立ったのがリッチーとは全く違うタイプの若きギタリストトミー・ボーリン。 彼は天才ドラマー・ビリー・コブハムのソロアルバム「SPECTRUM」に参加、そのアブストラクトでアグレッシブなプレイがミュージシャンの間で目だっていました。輝いていた。 彼はディープ・パープルで自分の音楽性を強く打ち出しました。 これまでの陰影のあるブリティッシュ・ハードロックから、それらを基調としながらも大幅にソウル・ファンクの要素を融合させた新しいロックへと劇的に塗り替えました。 カバ、グレンの2人の音楽性とも共鳴し、すばらしいロックを創造したのです。 しかし保守的なパープル・ファンからは一様にダメ出しの嵐でした。 ど~んなに素晴らしいアルバムでも、ダメでした。 アメリカンロック的なサウンドを好む人間はハナっからパープルなど好きにならないのです。 そういう意味では、ある種のマーケティングの失敗とも言えましょう。 無論両方の良さを理解する人はその時代にもいました。 しかしあまりにもその比率は低く、パープルのベースマーケットから逃げた層を埋めるにはいきませんでした。 ちなみに私もリアルタイムでは、「4期排斥派」でした。 特にロジャーのベースラインにほれ込んでいたのでさらに過激な「第2期原理主義者」だったのです。 あのころ、トミーが生きている間もう少し彼を理解するべきだったと思います。 今はこうした悔悟の念から、このアルバムを皆に勧めているのでした。 アルバム評を進めます。 1.Comin' Home イントロのきゅるるるる~んというギター、実はトミーが直前まで所属していたジェイムズ・ギャングの曲からいいとこ取りしています。 しかし、アメリカンロックっぽくカラッと明るいとはいえ、この曲だけなら、疾走間もあるし十分「抵抗勢力」にも受け入れられそうでした。 中間のギターワークもやや冗長ですが派手で楽しいもの。 私もこの曲は大好きな部類に入ります。 2.Lady Luck 昔私はこの曲で「もう以前のパープルではないのだ」と悟りました。 でも今になってみるとゴキゲンな曲ですよ。これも。 3.Gettin' Tighter アルバム中の白眉ではないでしょうか。 この切れのよい16ビートのカッティング。 グレンの窒息しそうなスタッカートベース。ドラムは・・ペイスが出るまでのこともない気もしますが(笑)。とにかくカッコイイのであります。 しかしCDに入っている約詩はちがうんでないか? 「いつもだんだん窮屈になる」っていうのは・・(笑)。 「いえいっ!バンドはタイトになってくるぜっ!!」という趣旨ではないかと思うのです。 4.Dealer 'Lady Luck'と同傾向の16ビート基調のノリ。 途中で入る甘いボーカルはTOMMYと思われますが。 ギターも後半、いかにも彼らしいソロとバッキングの両方が楽しめます。 5.I Need Love このイントロを聞くと、なぜか体が平行四辺形に動いてしまいます。 6.Drifter ベースがめずらしくもりもりとランニングしてて聴きごたえがあります。 7.Love Child これもまた・・。ちょっと同じ傾向の曲が続き過ぎか。 でもせっかくジョンがファンキーなシンセ弾いているのでこれは落とせないか。 8.a)'This Time Around' / b)Owed to G 4期の残した名曲のひとつです。なんてミステリアスで美しい旋律でしょう。 トミーらしい構築的なギターソロも非常に曲にはまっています。 悪いのは俺達じゃない 間違いも やり直しも許されない かつてと同じ風景が 今度もまた目に映る この頃までは歌は、グレンの方が断然上手かったと思うのは私だけでしょうか。 9.You Keep On Moving ベースではじまるイントロが実に印象的。アタマから最後までまったくダレずじっくり聴かせる大名曲です。 このアルバムで一番好きな曲を挙げよ、といわれるといつも迷ってしまいます。 3.8,9は聴くたんびに「ん~これが一番だな~」と唸ってしまうのです。 このアルバム、2,4,5,6,7と同じタイプの曲が詰め込まれているので全体の印象で損をしています!2曲くらい涙を呑んで落とし、Comin' Homeのような疾走形・・まではいかないか、ジョギングくらいか(笑)・・をもう一曲追加したらさらにグッと完成度が高まったのではないかと思っています。 その点を半分残して、★★★★+half
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