|
カテゴリ:ディープ・パープルファミリー解説
私の音楽上のカテゴリにおいて、この作品は「昔大嫌い・今大好きアルバム」というヤツに入っています。 ディープ・パープル3期の最初のアルバムである「BURN」では、当時の私たちの期待を大きく裏切ってくれただけに、今度こそ!という期待は大きかった(BURNは当時、低く評価されていた)のです。 1. Stormbringer 2. Love Don't Mean a Thing 3. Holy Man 4. Hold On 5. Lady Double Dealer 6. You Can't Do It Right 7. Highball Shooter 8. Gypsy 9. Soldier of Fortune ここで私が話すことは決してひとり「みちのく仙台」でのみにおいて起きた事ではなく、日本全国津々浦々においてほぼ同様の反応であった筈、ということを、まずは念頭に入れていただければと思います。 また、以下に記述することは、リアルタイムでこのアルバムを聴いた私たちと当時ロック界で一世を風靡していたディープ・パープルとの接点の記録であって、それ以上ではありません(くどいですね)。 あるとき、私が高校2の後半の頃か・・このアルバムを買ったので、自宅にパープル好きの友人5,6人を集めて鑑賞会を開きました。 このころ、アルバム一枚の値段が2500円だったか、今なら4000円くらいの買い物をしたとお考えください・・。 高校時代~浪人時代、仲間とブランデーなどを水割りにして、ちびちび飲みながらロックを聴いていたことが、私の最も色濃い青春の思い出です(ロクなもんじゃないな~)。 さて、STORMBRINGERの話でした。 レコードに、私が針をツッ・・・と下ろす。 ♪ジャカジャカジャジャ~ン!! 「おおおお~っカッコエエ!!!」 私を含め、一同は歓喜雀躍しました。 そこには、2期とは明らかに趣を異にするものの、問答無用のリフで押し捲る王者の貫禄がありました。 SやTの「やっぱりパープル、悔い改めたか!こりゃ期待できるぜ!!」 という意見がその場を支配しかけましたが、 「・・いや、前のアルバムのときも一曲目だけが良かった。今度もわかんないぞ」 とKが慎重な意見を吐きました。 このことは、私たちの有頂天に陰りを与えるとともに、微かな怒りの種を蒔いたのですが、彼は気づかず、一心不乱に柿の種を頬張っていました。 さて注目の二曲目です。 固唾を呑んで聞き入る私たちの耳に飛び込んできたのは、 ♪ちゃっちゃらりんらんらんら~ん というリッチー・ブラックモアとも思えない「提灯持ち」みたいなギターと、 ♪ふうん、ふうう~ん というデビッド・カヴァーデイルの気色悪い唸り声でした。 Sが、間髪を入れず、 「気持ち悪い。カーン。次!」 と怒鳴りました。たった7秒。 しかしそれはほぼ全員の総意と判断して差し支えありませんでした。 この鑑賞会の主は私なのに、なぜSが仕切らにゃならんのよ・・と内心叫びつつ、渋々、針を飛ばしました。 3曲目 「カーン!」 4曲目 「カーン!」 「ヲイヲイ、素人のど自慢じゃねえぞ、もっと落ち着いて聴かんかい!」 と私も一杯一杯のツッコミを入れましたが、どうにも分が悪い。 とにかく私の評価は「いちはやくパープルの新譜を入手した羨ましき人」 から「2500円をドブに捨てた哀れなクソヅカミ」へと急速に下落していたので、せめて一刻も早くこのアルバムが終わり、針のムシロ状態から開放されることだけを願いました。次には、なにか気の利いたLPをかけて、私の失地を回復しなければならぬ・・それは何だ?あれか、それともこれか・・そういう思いで私の頭は高速で回転していました。 一方、はじめに慎重論を唱えたKは、「やはり俺には先見の明があるんだ!」とその自信を人生一般に拡張しつつありました。普段どちらかというと仲間から軽く見られがちだったKでしたが、彼の株は先ほどの発言でいくらか上がったような気がします。彼の内面ではそれがさらに大きいのでしょうか、ブランデーを飲むその渋い素振りに、はやその兆候を見てとることができました。 結局最後まで聴いてもらえた曲は1. Stormbringer 5. Lady Double Dealer 8. Gypsy くらいのもので、この鑑賞会は陰惨な結果に終わりました。 私はよほど 「おい誰か、このLP1000円で買わないかっ!」 と申し出ようかという衝動に駆られましたが、その商談は成立しないだけでなく、皆の私へのリスペクトを著しく損なう行為であることは自明でした。 さて青春のリグレットはこのへんにして、このアルバムを今聴きなおすと、これはパープルのアルバムでは5本の指に入るのではないかという位良く出来ている・・・と思われるのです。看板曲の1や2期パープルの香りがする疾走曲の5はもとより、2も3も4も、いやいや、どこにも捨て曲なんかなく、ひたすらこのデビカバとグレンのツインボーカルが素晴らしい。 駄作だらけの「2期パープル再結成後」の作品より、はるかに完成度が高いのです。 ああ、思い返せば、あの頃の私たちは未熟であった。 特に、ボーカルの味わい方をからっしきし知りませんでした。 ハードロックは青春期の漠然たる不安と退廃、欲望でごしゃごしゃになった・・何というか「ウサ」を発散するための道具でしかなく、ボーカルなどはひときわそうした機能を果たす「楽器」の一つ位にしか思っていなかったのではないでしょうか。 そして、今この作品を聴いていると、当時のリッチーの無念もひしひしと感じられるのです。 IN ROCKの空前の大成功以来、パープルの看板プレイヤーとしてバンドを仕切ってきた彼が、なんと自分で入れた2人のミュージシャンに母屋を乗っ取られ、ただの伴奏者に成り果てるとは・・。ああ、リッチー・・。 しかしもちろん、これで終わる男ではリッチーはなかった。 バンドを飛び出し、黒い仮面をつけ、パープルのコンサートを妨害・・していたらミュージカル「オペラ座の怪人」になっていたでしょう。 彼はもっとお手軽なことをやった。 パープルの前座をしていた3流バンドのELFを乗っ取り、かのリッチ・ブラックモアズ・レインボウを華々しく立ち上げたのです。 デビュー曲「銀嶺の覇者」は、これも私は発売日に買いましたが、正直リッチー以外のメンバーの音がショボかった。リッチーのギターもリハビリ期間が必要だったようで、まだリビド全開迸るといったプレイでこそないが、それでもなお随所に「俺はしばら~くこういうのがやりたかったんだYO!」的な開放感、高揚感は感じられました。 このあと、彼はその本領を発揮し、ボーカルのロニー・ジェイムス・ディオのみを残して全員解雇、そしてロック界の渡り鳥ドラマー、コージー・パウエルを招聘し「虹を翔ける覇者」で大ブレイクし快進撃を続けることとなったのです。 /////////////////////////// レインボー/虹を翔る覇者 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[ディープ・パープルファミリー解説] カテゴリの最新記事
|