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テーマ:温泉について(1666)
カテゴリ:その他の東北の温泉
あ、タイトルがなにげに短歌風になっております!
井上靖先生の「海峡」を読み、私にとって下風呂温泉は一度は来たい、憧れの温泉地となっていました。 下風呂の語源はシュマ・フラ(岩臭い)らしいです。 ガイドブックで見る限り、有名な割りにはそこそこ鄙びた漁村の風情がそそります。 ここの岩臭い風呂に入って極上のイカサシが食いたい! その憧れが、ある日ついに臨界点に達しました。私は小雨降る中、朝6時に出発し、恐山を経由し薬研、そして下風呂へ。 青森はとにかく山深いのです。 山の中をひたすら走っていると、突然視界が開けてきて、海が見えてくる。下風呂が近づくにつれ、心が弾んでくるのがわかります。 大畑漁港から先は、快適な海岸道路です。 窓を全開にすると、深いにび色の海とともに快い潮の音が迫ってきます。 /////////////////////////// 下風呂温泉― 「津軽海峡に面した旅情あふれる温泉。海峡の温泉らしく、海の幸が豊富で、食通の観光客には人気。また冬の厳しい津軽海峡を望みながらの湯治は格別の風情。 井上靖の小説「海峡」の舞台にもなりました。近辺には活イカが常時備蓄してあるセンターや風光明媚な「二見岩」があります。7~11月にかけては毎週火・ 木・土曜に1日2回「イカ様レース大会」が行われ、観光客には大好評です。」(青森県HPより) /////////////////////////// かどや旅館は、海岸通りから山手に入ったところにある小さな旅館です。 「楽天トラベル」では残念ながら登録されていませんので、私はじゃらんで予約しました。 全14室。やや年季が入った、鉄筋3階建ての建物は風情こそあまりありませんが、私としては何不自由ありません。 「じゃらん」で見る印象よりは、はるかにガッシリした建物です。 特に一人旅のときは、このくらいの大きさの宿が一番です。 部屋は3階、蘭の間。一人用には十分な広さです。窓からは、2階の屋根がやや邪魔ですが、海を眺めることができました。 右手の窓には小ぶりの山が迫っていて、こちらの緑の風景も悪くありません。 「では、散歩に行ってきます」と元気で愛想のいいご主人に告げると、奥からサイズの合いそうな下駄を用意してくれました。 「道なりに行きますと、海まで遠く感じてしまいますが、突き当たったところを左に折れると気持ちのいい遊歩道がありますよ。そうだ!今日はハマでイベントもやっていますので見ていってください。花火もやりますよ。先週、台風が来たので、今日になったんですよ!」 それはまたラッキーなことです・・。 私は快調にカランコロンと下駄を大きく鳴らしながら、下風呂の散策に歩き出しました。 メモリアルロードからの風景には、私の大好きな海辺の集落の風情が凝縮されています。 海岸通りでは、宿のご主人の言った通りイベントが開催されており、地元漁協によるものか?関係者が集まって打ち合わせのようなことをしていました。 午後3時半。まだ人手はまばらですが、たぶん大丈夫、夜には込み合ってくるのでしょう。うへっ、舞台ではカラオケ大会とな? ホタテ焼きがうまそうです。 しかし、6時には宿で食べきれないほどの海のものが出されるはず。ここで腹を満たすのは下策であろうと思いとどまります。 会場隣の「風間浦村活イカ備蓄センター」(イカめしい施設名である)では大きな水槽にイカを泳がせています。 食堂も併設、イカ刺700円。う、うまそうだっ・・・。私はイカ刺の甘味に目がありません。 しかし、6時には宿で食べきれないほどの海のものが出されるはず。ここで腹を満たすのは下策であろうと思いとどまります。 ここでは、「元祖烏賊様レース」というイカの競争レースをやるらしいです。3時の部は終わって、次は5時から。もう一回来て、やってみようかという気にもなりましたが、レースで応援するとなると私はきっとイカに名前をつけてしまうことでしょう。 そんなことをしたら私は情が移って、一生イカを食べることができない体になってしまうでしょう。これも、思いとどまりました。 思いとどまってばかりいる午後・・。 井上靖先生が名作「海峡」を執筆した「長谷旅館」を外から見学しました。 案外フツーっぽい旅館で、少しイメージと違っていました。もう少し鄙びた風格があるものと思っていたのですが。 でもきっと、中に入るとイイ感じなのだろうな。 右下に見える湯小屋がそそります。 が、こういうところでサイフとかクルマのカギをなくすと致命傷になるな・・。 ということで、またしても私は思いとどまりました。 旅館に貴重品類を預けておけばよかったかな、とチト後悔しました。 ここまで来たら、やはり長谷旅館の風呂に入らなければ・・・ネ イベント会場の脇にはこじんまりとした漁船が並んでいて、さもない風景ではありますが、 こんなところで急に、ああ下北まで来てしまったんだなあ・・・という気持ちがこみ上げてきました。 さて、かどや旅館の話に戻ります。 風呂はこじんまりしたもので、洗い場に椅子もないような質素なところですが、湯は本物! (写真はHPより) こういうところで、設備がよくないなどとクレームをつけるのは、勘違いというものだと思っています。かえって、こういう濃厚な湯を目の当たりにして、一心不乱にアワをたててシャンプーをしている人を見ると、あんた、何しに来た?と言いたくなります。 なるほど、「滲みてくる湯」とはこのようなものであったか・・。 私はくんくんと鼻をならしながら、湯船にあごの線まで深く沈みました。 私はとろみがある湯が好きなので、心地よいことこの上ありません。 そのくせ、湯あがり感もさっぱりとして、キレのいい湯です。 ただ湯温が高く、せっかくの源泉を水でうめなくてはならないのが残念なところです。 私は真夜中に誰もいない館内を歩き、誰もいない風呂に入るのが密やかな楽しみなのです。でも、いつも心底気持ちがいい~と思えるのは早朝の風呂に尽きます。 夕食前、夕食後、真夜中、早朝の4回入浴。 この「4回」というのが私のこだわりであり、それ未満だとなんだか損した気がします。 この湯に会うために、5時間も車を走らせてきたのでした。 かどやの夕食は、期待以上の豪勢さでした。 一の膳では入りきれず、二の膳まで海の幸がぎっしり。 海のモノしか出さないポリシーが潔い。 イカよし、ホヤよし、アワビよし! あああ恍惚。 つくづく、下北まで来てよかった。 (写真は「じゃらん」より) (写真は旅館HPより) そして、それらの美味はもちろん、私は白身の刺身が何より良かった。 こりゃ何だろう、ソイ系の魚なんですかね。身の光沢も、ほのかな磯の香りも、歯ごたえも極上。 私のメモによると(何メモしてるんだ)、ここでは 1.刺身盛り合わせ 2.魚介類と野菜の陶板焼き 3.ほや酢 4.いかのゴロ煮 5.アワビの刺身 6.めかぶ酢 7.ウニのせ豆腐 8.みがきニシンと野菜の煮付け 9.イカ刺 10.こはだ?酢 12.そうめん 13.アワビのステーキ 14.焼マス ・・・ こうしたものがドーンと出て、食べ終わったときには、もはや再び浜に出て、花火をみようという体力が残っていませんでした。 早々に布団をしいてもらい、寝臥せっていると、なんと窓越しに、寝た姿勢のままで花火が舞っているのが眺められました。 こんなに安楽な環境で見るのは、生まれて初めてです。 ひゅーっ、ズドオオン・・・ ひゅーっ、パチパチパチ・・ 私は下北の果ての小さい旅館で、海辺の花火を眺めながら身を横たえているんだなあ・・。 ああ、こたえられない、これ以上の望みはない。 だんだんと、この光景が遠ざかり、まぶたが下がってきました。 走り詰めだった今日の疲れが体を駆け巡ってきて、私はまどろみの中に引き込まれていきました。 (infoseekのeswebに預けていた写真が勝手に削除されたため、写真はホームページ等から拝借しています。ご了承ください。) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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