続き
彼女は、いつもここで笑みを浮かべながら海を見ていました。そして、ここに立てば荒波にのみこまれそうなほどの弱々しい少女でした。少女はこの丘が大好きでした。遠くで聞こえるボーという音と共に、少女の胸は高まり顔は紅潮さえしたのです。遠くまで地平線の彼方まで見渡せる此処が何よりも心地良い居場所でした。まぶしい太陽に何より近く、身体全体をつつみこむ潮風のみ込まれそうなほどの荒波すらも彼女の鼓動と感じるくらいでした。少女は一隻の船を遠くに見つけます。誰より早くその船を見つけることが何よりも好きだったのです。その船を見つめることのできる小高い丘が好きだったのです。遠い彼方から波をのみこみ港に着く様子をじっと見つめることが少女の幸せの足取りでもありました。ゆったりとした船の進み具合も、近づくボーっという音もその回数も少女の心に刻み込まれるものだったのです。船が港に着いたのを見届け、彼女は丘を駆け下り自転車で港へ向かうそんな事を何度くりかえしたでしょう。ほつれた髪と息を整え、誰もいなくなった港に向かうと小さな鞄をもった青年がいました。一歩一歩、はにかんだ青年に近づく少女・・・そんな彼女を優しく包み込む青年・・・何よりもの安堵感・幸せを感じる少女の時間でした。・・・つづく・・・