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テーマ:東北関東大震災(31)
カテゴリ:ビジネス・経済・政治
昨日の続き。
市民が欲するサービスが、 1つの組織からしか提供されていない段階では、 その組織の態度は傲慢になります。 ここ最近ではiPhoneやiPadを開発した米国アップル社が良い例。 スマートフォンやタブレット端末が1つの会社からしか出ていないとなると、 彼らは自分たちの立場を守るために、 ハードの売り方からソフトウェアの開発方針まで、 それこそ顧客の利便性など関係なく自分たちの都合で運営してしまう。 そこにライバル会社が次から次へと競合品を出してくることで、 ようやく市民に近づいたマーケティングに戻ってくる。 つまり世の中、節度ある競合状態が必要なのです。 …で、日本にある9つの電力会社。 昨日の日記で、 60数年前の太平洋戦争前夜の戦時体制で誕生したままで 経営システムとしては欠陥だ、と書きましたけど、 何が欠陥かといって、節度ある競合状態がないことが欠陥なのです。 つまり東京電力管内で言うと、 東電以外に電気を作ったり配ったりしている有力企業はありません。 すべて東電の一挙手一投足で電気の分配や料金が決まってしまう。 すると、「驕るな」と言っても組織としては驕ってしまうわけです。 上から目線になってしまうのです。 だから経営システム的に欠陥なのです。 かつて国策会社として「公社」という組織が3つありました。 曰く、電電公社(現NTT)、専売公社(現JT)、国鉄(現JR)がそれ。 3公社とも『親方日の丸』なのでグータラな経営でしたが、 この中でも国鉄が最もデタラメだった。 国の方針で戦後の引き揚げ者を大量に採用させられたことや、 国会議員が票田獲得のために超赤字になることを見越して ローカル線建設を推し進められたことなどが仇となり、 生産性が上がらす、労使間は戦争状態になり、 しかも赤字は天文学的な数字となりました。 ところが組織としては労使とも 「日本の物流を唯一になっている輸送機関」の自負があったんですね。 これがいわゆる「驕り」です。 僕も記憶してますけど、今から40年近く前に 先鋭的な国鉄労働組合(国労)がスト権を確立するために、 10日間ぶっ通しで24時間ストライキを敢行したことがありました。 240時間、全国の国鉄の列車が動かなかったんです。 労組側は 「これで日本は物流がマヒして大パニックになり、 国鉄の経営側が自分たちの主張を受け入れるだろう」と踏んだ。 経営側は 「彼らがストライキすることで、日本経済が沈んでしまう。 どうしたものか」と震え上がった。 双方とも一生懸命歩み寄りを見せようともがいたものの、 結局は交渉がまとまらず、10日間のストライキが始まったのです。 ところがフタを開けてみれば、労使とも想定外のことが起きた。 何と。 国鉄が運行をストップした10日間、日本の物流は途絶えるどころか、 全国津々浦々、しかるべき荷物が しかるべきところにしかるべきタイミングできっちり届いたのです。 日本経済が沈むことは決してなく、いつもどおりの物流が確保された。 つまりこの1970年代半ばの時点で、 高速道路網というインフラはそれなりに発達し、 トラック輸送が物流の主役になっていて、 国鉄の貨物列車を利用するはずだった荷主は、 みんなトラック運送会社に鞍替え発注したわけです。 通勤手段を奪われた人たちも、並行する私鉄を利用したり 都心部に宿泊したり、車に乗り合い通勤したりと、 涙ぐましい努力をして何とか10日間をしのいだ。 国民から「別に国鉄がなくても関係ない」と、 みごとに国鉄の存在価値を否定されたんです。 「驕り」が音をたてて崩壊した瞬間でした。 このできごとが、その10数年後に分割民営化される 大きなきっかけになったのは誰も否定できません。 その腐りきった組織体であった国鉄が今、 分割民営化されてJRグループとなりましたが、どうでしょう。 民営化前に比べると、打って変わって元気な組織になっている。 北海道・九州・四国の三島会社はともかく、本州のJR3社は黒字基調。 しかも運賃改定は民営化後ほとんど行っていない。 そして1995年の阪神淡路大震災や、今回の東日本大震災でも、 いち早く路線の復旧に努め、地域の復興に大いに貢献している。 かつて電力会社以上にモラルハザード状態にあった組織が、 今や日本の経済界を引っ張るリーディングカンパニーになっているわけです。 それもこれも、トラック・バスや飛行機、船舶、 都心部では私鉄、地方では自家用車や自転車といった競合交通機関があって、 それらと節度ある競合状態にあることが功を奏しているんだと思うんです。 では、電力業界において節度ある競合状態を現出させるために、 どういう手段が考えられるか。 話は簡単。電力の生産を他の組織でも大手を振ってできるようにすること。 あるいは一般家庭で発電できるような環境を作っていくこと。 「電気を作って配るのは電力会社だけではない」状況にすることで、 各電力会社の「驕り」も自浄されるのではないでしょうか。 今、一般的な戸建て住宅で太陽光発電システムを導入すると、 初期コストだけで最低200万円はかかるそうです。 これをもう少しこなれた方法で販売する手法が確立すると、 太陽光発電は爆発的に増えていき、 あまり電力会社のお世話にならなくても済む世帯がその分増える。 「お前たちの代わりは、いくらでもあるんだよ」 そういう状況を作ることが、電力会社の「お上意識」という驕りを瓦解させ、 否が応でも市民に近づく会社に変革させる原動力になるんだと思います。 それは過去の歴史が証明しています。
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