年下彼氏

死にたいと思う人は少なく無い。
実際に死んでしまう人も少なく無い。
けれど死ねない人もいる。

あたしのように。


気がついたら死にたいと願っていた。
初めてそれに気がついたのはいつだったろう。
遠い記憶を探れば
それは保育園で砂場遊びをしていた時だったようだ。
死にたい。　
死んでしまいたい。
そしてあたしを失った事を後悔して欲しい。
死にたいと願う強さの分だけ
あたしは生きたがっていたのだった。
幼いなりに理解していたのは
「あたしは死にたいといいつつ特別な人になりたがっているのだ」
という事実。
そんな考えにしがみつく自分が恥ずかしかった。
本当に死を恐れないのなら
毎夜襲いくる幻視体験に怯えるはずもないのに
恐怖におののくあたしがいた。

成長するにつれ
あたしは扱いにくい子供になっていった。
自意識過剰で醜く運動も出来ず
本ばかり読んでいる理屈っぽい生意気な子供。

両親は保証人になった相手に逃げられ
大借金を背負ったところでいつも不機嫌だった。
父はなにかあるとすぐ殴った。
母はなにかと人生のつらさをあたしに愚痴った。
祖母は母のいたらなさをあたしに愚痴った。
家にいる間は緊張の連続でしかなく
ただただ相手の歓心を買う為に慰め役にまわった。

誰かに愛されたいばかりのあたしは
学校での友にそれを求めすぎ
結果13年間に及ぶいじめにあっただけだった。
教室にいるのは苦痛だった。

家も学校も神経を張り詰めて過ごす生き地獄でしかなくなっていた。

この頃にはもう相当おかしくなっていたんだろう。
四六時中誰かに見張られている視線を感じ
通りすがりの車の中の人さえも
あたしの醜さをあざ笑っていると思った。
既にみんなには見えないものが見え
聞こえないものが聞こえていた。
それは終わる事の無い恐怖の毎日だったのだ。


「普通になりたい」


それだけが望みだった。
何もいらない。欲しくは無い。
誰かに好かれたい。
この世の中の誰か１人でもあたしを欲しいといってくれるなら
そうしたら生きていけるのに。


「普通になりたい」


いまでも変わる事の無い一番の願い。


車ごとぶつかって車は大破したのに助かってしまうあたし。
マンションの4回から飛び下りても助かってしまったあたし。
薬の多量摂取でも助かってしまったあたし。
思い付く限りの自殺方法を試して全て未遂で助かってしまった。
首吊り　リスカ　切腹　ｴﾄｾﾄﾗｴﾄｾﾄﾗ
血まみれのあたしを見て泣きながら救急車を呼んだゆーきを
憎んだ日もあった。
死ねないあたし。
死なないあたし。


不完全にしか狂うことも許されず。
死ぬ事も出来ず。


そうして突然その光りがあたしに降りたのだった。
一瞬にして理解したこの世の理　あの世の真理。
この世界はカレイドスコープなのだ。
そして人間もカレイドスコープなのだ。
その日から
あたしの目にうつる世界は姿を変えた。

けれど　それを語る言葉をあたしは持たない。
言葉に置き換えると全ての意味がずれていく。
語れない事の歯がゆさを伝える事ができず
あたしはリーディングを辞めたのだった。


人はみんなラジオのようなものだと思う。
チューナーをいじれば様々なものが聞こえる。
人によっては雑音なくその声をきくことができるだろう。
人によってはアンテナをたてることによりきけるようになるのかもしれない。
言葉を持たないあたしには翻訳するのはとても困難な作業だ。
それでも人は知りたがる。
そのサインを。その意図を。
そしてあたしは語れない事を時々しんどく思うのだ。