野良猫
ここ一ヶ月一匹の白い野良猫に心奪われている。なんとも美しい青い目をしている。ある日庭の片隅でじっとすわっていた痩せた猫。口の左端が真っ赤で、獰猛な犬に噛まれたのか、と思った。そばによれば、さっと逃げていく。初めて見た時は、小さな柵を飛び越えることもできなかった。今はできる。まるでお年寄りのような歩き方。それは今でも。年齢不詳。痩せ方は生後6ヶ月ぐらいだったが、よく食べるので最近は10ヶ月ぐらいと言う感じ。お腹が空くと庭にきてじっと座っている。最初はうちの猫用に庭にだしていた餌を食べにきていたらしい。あまりにも哀れなので、餌をやるようになる。一見とても病的だが、食欲はすごい。食欲だけは誰にも負けないさ。一度はエックスの市役所に電話。若い消防士が二人きてくれた。が、ひなたぼっこをして目を細めているか弱い猫をみて、心優しい消防士は、「ああ、二週間ほど前に受けた喧嘩傷でしょうね。 このままにしておいてあげたら。 今連れて行ったら獣医さんに注射打たれて おしまいですよ」結構、野良猫の通報を受けて出ることの多い消防士さんたちも野良猫の行く末を知っているから辛いのだろう。その後、猫の口から液体がよく垂れていた。ふいてあげようと近づいても逃げられる。そして、なめる箇所である顔半分、両足尻尾の一部などがはげていく。インターネットでいろいろ読んだが、膿のせいだろうと思う。もちろん、私の素人判断に過ぎない。原因は消防士さんが話していたように喧嘩傷もあるのだろうと思う。食べ方が変で口をあけ中を見たいと思ったが、最初は近寄る事もできず今でもそれだけはまだできない。左の頬はかさぶたができて治りかけているのかもしれないのを引っかいてしまうので、常に血だらけ。えりとかげカラーも考えたが首部分も少し傷がある。左目は小さくなってしまっているし、とにかく見た目とても汚そうで、ものすごい病気もちにみえる。主人はライ病じゃないのか、とかまで言う始末。いや、白い猫に多いという白血病かもしれないし。何の病気かわからないので触った後は手は石鹸で豊かに泡立てて洗う。そのお陰かまるで私には問題なし。ある日から餌をやる内にそばに近寄ってもさっと逃げなくなった。これを機にシャンプーしようとあらかじめタライにお湯をいれお風呂場につれていったが、抵抗されて失敗。噛まれたりしないように注意はしていたので自分が傷つけられることはなかった。お風呂場もその後石鹸で徹底的に洗う。その後も餌は与え続ける。食欲だけは誰にも負けないさ。餌を食べ終わるとどこかへ行ってしまう。どこへ行ってしまうのだろうと後を追いかけてみる。近所のアパートの敷地内でひなたぼっこをしていたことがあった。その後夕方にまた後をそっとついていったら、逆に気づかれそこで自宅に戻ろうとすると、今度は向うが私についてきた。ちょっと感動。庭に戻ってきて餌をやる。それが約一週間前。それ以来、庭に段ボール箱を置く。段ボール箱の一部を切り取り、猫が歩いて中に入れるようにする。中に古いセーターとTシャツを敷く。野良猫は苦なく中に入り、以来、そこで寝ている。夜は少しまだ冷えるので、一枚の綿の布と古くて着なくなった一枚の絹のシャツを上からかけてあげる。そばによって水を含ませた布で顔や体を拭いてあげる。気持ちがいいのか、なんと、ゴロゴロいっている。布で頻繁に拭いてあげるようになってからは口の液体も出なくなったし、清潔感は少しでた。左半分の顔がはげていたのも少しうっすらと毛がはえている。5月の南仏エックスは幸い暖かい。ここ2,3日雨が降ったので、傘を2本箱の上にかけてやる。野良猫はそこからもう出ようとしない。餌を食べたい時だけと用足しの時だけ箱から出る。一度獣医さんに電話したが、獣医のたるんだ声に不安を覚え、今はとりあえず、猫の旺盛な食欲に希望をつなぎ、できるだけ傷部分を水を含ませた布でふいてあげている。治療にン万円を出しかねる不安もあるので、とりあえず今はもう少し様子を見ようと思う。南仏には野良猫保護団体があり、去勢手術、餌、住まいを提供している所もあるが、そこももう猫は抱えきれないほどだという。別に不思議な話ではない。マルセイユに行った時も野良がたくさんいた。個人でこの辺の野良猫の去勢避妊手術代を出すような人もいないだろうし、今後も市が積極的に対策にでない限り野良猫の数は決して減ってはいかないだろう。野良猫に餌をやるなんて無責任だと非難する人もいるだろうから少なくとも白猫をいずれはうちの猫にするか、保護団体に預けるかどちらかにすべきだろうと思う。やっぱり猫は飼うなら去勢避妊手術はしたい。