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朝起きると、窓の外は大きなボタ雪が降りしきっていた。東京では珍しい、雪の朝である。
前にも書いたことがあるかもしれないが、こんな日に、必ず思い出すことがある。それは、私が就職し初めて働いた会社、百貨店やファッションビル内に多店舗展開していた婦人服専門店のインストラクター(社員教育担当者)の言葉だ。 何の拍子だったか忘れたのだが、その頃の私の勤務先・広島県福山市内でも、年に1度くらいは朝雪積もって、電車が遅れることがある、という話になった時・・・。 私がお気楽な調子で、「そういう時は仕方がないから休んでもいいんですよね」というと、インストラクターは真顔になって、「両国さくら(仮名)さん、それは絶対駄目よ。電車が動いてなかったら、朝早く家を出て、代わりにバスでお店に向かって頂戴。それも無理だったら、自転車に乗ってでも、お店に向かうこと」と、強い調子で私を叱責したのだ。 彼女は続けて、「雪が積もっていても台風が接近していても、余程のことがないと百貨店やファッションビルが臨時休業することはないのよ。そういう日、お客様の数は非常に少ない、ということはあっても、朝、どこのインショップも開店に間に合わない、マネキンにかけてある白い布が取られていない、なんてことはまずないからね。皆、無理してでも絶対に出勤してきて、白い布を取って掃除をし開店には間に合わせるのよ」。 「それぐらいの責任感のないブランドは、百貨店やファッションビルの中で生き残ってはいけないことを、必ず憶えておきなさいね」。 まだ20代だった私は、電車で30分以上離れた町に住む私が雪の中自転車を押して百貨店を目指す光景を想像し、「何て厳しいんだ」と身震いしたのだが、しかし、地方都市のその百貨店さんには、私なんかよりもっともっと通勤に時間がかかる郡部から通ってこられている従業員の方も何人も存在した。 温暖な気候の瀬戸内の地方都市で、実際に雪のため電車が止まる、ということは、私が勤務している間はなかったのだが、台風の接近や公共交通機関のストなどという事態はたまに発生していた。お陰さまで、主要幹線経路で通勤している私自身が困るようなことは全くなかったのだが、郡部に住む方々は、そういう時でも、家族に車で送ってもらうなり、別の経路で駆けつけるなりして、何とか定時に間に合うように出社しておられた。 正社員であるかパート、アルバイトであるかを問わず、働く、ということ、お店でお客様と接するということには、それくらいの責任感が伴う、ということを、私は、その初めての職場で、先輩達の姿から学んだのだ。 今、その時私を厳しく叱責したインストラクターのその当時の年齢に近づきつつある自分は、元来はいい加減だった自分自身はそういう素晴らしい先輩達との出会いのお陰で、天変地異があってもそうやって一歩でも早く会社に近づくような厳しさを持って働く人間になったのではないかと自負している。 しかし、自分の後進達に対して、働くことの意味を愛情を持って伝えることが出来ているだろうか。 厳しさのないところに、喜びや達成感はない。降りしきる雪の中、昼下がりの裏原宿で、店頭をほうきで掃除するショップスタッフの姿を見ながら、かつての先輩達が身をかがめてダスターで店内のガラスをふいていた姿を思い出していた。 人気blogランキングへ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006年01月21日 23時57分34秒
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