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カテゴリ:海外レポート
さくらのヨーロッパ・レポートの第一弾は、スイス発の話題です。
宿泊したホテルから歩いて5分とかからない、チューリヒのメイン・ストリート、バーンホフ通りに、先日日本進出を発表したばかりのインディテックス・グループの「マッシモ・デューティ(Massimo Dutti)」を発見したので、1月30日月曜日の午前10時過ぎ(現地時間)に早速行って参りました。 このバーンホフ通りは、世界のラグジュアリーブランドが立ち並ぶチューリヒの一等地だが、同店はその中でもチューリヒ中央駅から徒歩10分程、斜め向かいがスイスの著名ブランド「バリー」の店舗という、立地的には最高と呼べる場所にあった。 まず、気付いたのは、「マッシモ・デューティ」のVMDの美しさ。ホームページで見た内容から予想していたよりもはるかに綺麗だった。裏を返すと、「あまり売れていない」からかもしれないし、スイスは法令の規制で日曜日は店休日、休み明けの朝一番の来店だったからかもしれないが。 壁面の白と、濃いブラウンの什器の色目のコントラスト、恐らくは「ジャズ」をテーマにしているのではないかと思える写真(サキソフォンを持った男性や唄を歌っているシンガーらしき女性の写真等があった)やイラストレーションをレジの後ろや壁面に数多く配置し、「大人向けのお店」であることを強く印象づけている。 入り口から手前がメンズ、奥がレディスのコーナーになっており、面積比ではメンズ・レディスは1:2、合計でおよそ750平方メートルくらいはあるのではないかと思ったが、特にレディスのコーナーは、中央の什器の数はかなり少なめで非常にすっきりとしたレイアウトになっていた。十二分な売場面積を確保するためかキッズは置かれていなかった。 セールシーズンなので、全品6割引とかなりお買い得である。英語の通じない店員の様子に、「これは商品そのものからしか情報は取れないな」と覚悟し、早速商品の物色を始めた。 メンズについては、ジャケットのラインを見た限りでは、アメトラでもブリティッシュ・トラッドでもイタリアン・テイストでもない、無国籍でこれといった強い個性はないMDのように思えた。 ドレスとカジュアル、双方を扱っていたが、ドレスのゾーンで特徴的だったのは、カラーコントロールが美しくなされていたこと。それは、売り場のVMDが綺麗だ、という意味だけではなく、お客様が実際に商品を買って着用した際に、色を着こなしのスパイスにしやすいよう考えられている、という意味も含めてのことである。 特に、ドレスシャツの品揃えにそのことがよく現れていた。ストライプやチェックのシャツの割合が非常に多かった(店頭では半分くらいか?)のである。カラーシャツ、というのはなかなか着にくいものだが、ストライプやチェックならばコンサバな客層でも手が出しやすいものだ。襟のバリエーションよりも、はっきり言ってとっつきやすい。つまりは、それなりに所得はあるが、ファッション感度は普通程度の層向きのMDを組んでいる、ということであろう。 カジュアルのゾーンも、デニムやチノを核にしたコーディネートだが、全体に上品で綺麗目な雰囲気である。しかし、Mサイズでも袖丈は長めなので、身長の低い人には着こなすのは難しいかもしれないと思った。 続いてレディス。「ZARA」と比べて、SKU数の少なさ、色やイメージがぐっと絞り込まれていることに驚く。 色に関していうと、黒×白にグレー、紺くらいまでを網羅したモノトーン系のグループと、茶、カーキに、差し色のピンクを加えたグループの2括りしかなかった。モノトーン系の方が、デザイン的にはベーシック×フェミニンで、茶、カーキ、ピンクのグループが、ワーク&ミリタリー×フェミニン、と非常にわかりやすい。 「ZARA」だと、2005~6年秋冬は、「バレンシアガ」のコピーのようなヴィクトリアンテイストの黒のブラウスやコートなどがかなり仕込んであったが、その種の商品は黒のグループには見当たらなかった。 商品1点1点を見ていく。やはり、「マッシモ・デューティ」の魅力は、デザインにあるのだろう。コンテンポラリーで、尖りすぎてはいないが、ディテールはそこそこ凝っていて、パターンも美しく、着るとシルエットは綺麗に出るだろうな、と思えるものが揃っている。縫製も「ZARA」よりは良いように思う。素材も、綿、麻の布帛物は、確かにそこそこのレベルだ。 早速何点かをチョイス。まず、綿100%のラウンドネックの黒のTシャツ(ユーロサイズのL)、麻の7分袖、シャツカラーで、ローウエストの位置でスカートが切り替えになっている膝下丈のワンピース(ユーロサイズの42号、元値160スイスフラン=14,720円)。それと、店頭に1点しか商品がなかったのだが、昨春世界的にヒットしたM65タイプのミリタリージャケットのデザインを元にアレンジした綿のジャケット(これはものすごくかっこ良かった。売れたであろうことはよく理解できた。肩章付きで、エルボーパッチとフラップポケットの一部がレザーになっていた。ユーロサイズの42号。元値200スイスフラン=18,400円)。 試着室に私が入っても英語のできないショップスタッフは私をほったらかしだ。仕方ないので自分で全て品定めしたのだが・・・。 Very Goodなんですよ。どれもこれもサイズが私にはちょうどぴったりなのだ。自分でいうのも何だが、非常に良く似合う。上品で知的で、そこそこトレンディで、そしてほのかに色香のあるデザインが生きていますね。 私は身長が169センチ、細身ではなく日本人としてはかなり太めでたくましい体型の方だが、38から42、ものによっては44号まであるというこのブランド、私が着た物より小さいサイズを見た感じにおいても、細い人でも太目の人でも、身長の高い人(もっとはっきり言うと160センチ以上の人)ならばかなりかっこ良く着こなせるのではないかと思います。但し、デザインの多くが縦のラインを強調したもので大きさ自体も大きいので、小柄な人向けではないようだ。 結局、元値130スイスフラン(日本円で11,960円)が30スイスフラン(2,760円)になっていた黒のTシャツを買って店外へ出た。約40分間店内に滞留し、私以外の入店客は女性1名のみ、買い上げは私1名だった。 MDについて感じた問題点は、小柄な人向けのデザインではない、ということ以外に2つある。 1つは、横編みのニット(セーター、カーディガン)の糸の品質が非常に良くないこと。置いてあった型数そのものも少なかったのだが、価格の割に非常にカサカサで粗悪だ。あれではちょっと、売れないのではないんでしょうかねぇ。 もう1つは、スイスは寒い国なのに、重衣料、特にコートの品揃えがほとんどなかったこと。今年は暖冬で路上にも雪はなかったが、街を歩く人は皆毛皮やロングコートを着て、帽子や手袋までしている人もかなりいる地域で、これでは戦えないんじゃないだろうか、という感じであった。 ネットを検索していると、2004年に「ZARA」が動物愛護団体の抗議で毛皮の使用を取りやめたという記事が引っ掛かった。その関係もあるのだろうか。それにしても、これから北方への進出も増やすのであれば、もっとカシミアやアンゴラ、ウールのコートを仕込んでおく必要があるように思った。 ショップスタッフの話だと、スイス国内に「マッシモ・デューティ」は他に2店舗存在するとか。チューヒリ市内にはもちろん「ZARA」の店舗も1店舗あり、同日の夕方6時半頃訪れた時には、非常に賑わいを見せていた。 スイスで「マッシモ・デューティ」がどのような評価を受けているかはわからないが、このままのMD、価格で日本に来たとしたら、百貨店アパレルの価格帯との比較ではやはりやや割安、ということにはなると思う。 しかし、想定されるターゲットはバナナ世代(1965~70年生まれ)、団塊ジュニア(1971~76年生まれ)と30代になりつつあるポスト団塊ジュニア世代(1977~1980年生まれ)、ということになり、既婚者で仕事を一旦やめてしまった層は百貨店からは足が遠のき、百貨店で洋服を買い続けている層はそれなりのこだわりを持って服を選んでいる人達なので、広告宣伝等でそれなりの仕掛けをしないと、やはりそう簡単に数字を取るのは難しいのではないかという気がする。 「マッシモ・デューティ」のレディスは、スカート、ワンピースの品揃えの豊富さが特徴だ。刺繍やプリーツなども多用し、エレガントな雰囲気である。パンツとの重ね履きよりは、ブーツやパンプスと合わせて、長い足のどこか一部分は見せて女らしさを演出した方がバチッと決まる雰囲気である。 この商品の匂いだと、特にレディスは、代官山系ファッションとか、ベイクルーズ、トゥモローランド好きの多い世代よりももう1つ上のジェネレーション、バブル期に青春時代を過ごしインポート好きのハナコ世代(1959~1964年生まれ)の方にウケるかもしれない。だが、そうなると、サイズ、特に身長の問題がネックになってくるだろう。 むしろ、よりセクシーな方にMDを振れば、109系ファッションになじみのあるポスト団塊ジュニアや、それ以下の世代(1981年以降の生まれ)の方に親和性が出てくるかもしれないね。 だが、そのような細かい配慮を行わず、日本をアジアの「ワン・オブ・ゼム」と考え、特別な日本仕様まで行う必要はない、当面はそこそこの数字さえ上げていけば良い、という戦略を、世界のガリバー企業であるインディテックスならば取り得るのだ。同社のサイトには、1月25日にはタイとシンガポールに1号店がオープンした、という記事が出ていた。東南アジア、中国、韓国等において、「マッシモ・デューティ」がそれなりの実績を挙げていけば、日本一国の売り上げなどたかがしれている。 北米でのヒスパニック系住民の増加が、芸能界やアートシーンにおいてのヒスパニック系の人材の活躍を生み、ひいては世界的なカルチャー・ムーブメントへの影響力を増している今日、インディテックスの発信するファッションには時代の追い風が間違いなく吹いている。 それが受け入れられやすい地域と、そうではない地域が存在するだろう。日本は後者に近いのではないか、というのが私の予想だが、ジャパン社に優秀なスタッフが揃い、本社をも動かすコミュニケーション力を持てば状況は変わるかもしれない。 お店は生き物。蓋を開けて見ないと結果はわからないのだ。 人気blogランキングへ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006年02月06日 23時14分13秒
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