墓標
茜に染まりゆく背中其の声を虚空に刻み喩えるならば 深く闇に呑まれた樹海若しくは 此の心の様に乾いた無限の沙漠向けられた愛しい者の瞳それを捕えるのは 一点の翳りも無く空の如く澄み渡る 自らの瞳喩えるならば 仄暗い窟若しくは 此の心の様に濁った底無しの沼全てを見下す 丘とは違う宵闇の刻 縺れる足を止め瞳を捕えて 唇を重ね逸る想いと息を抑え蜻蛉の刻をも 喰い尽くし喩えるならば 深く闇に呑まれた樹海若しくは 此の心の様に乾いた無限の沙漠全てを見下す 丘とは違う此の恋の散るべき果てに今や言の葉など無意味命を繋ぐものも もう必要無い愛しい者と繋がった刻何も憂いはしない 同じ刹那に生まれ堕ち同じ泡沫を共に過して嗚呼 なんと云う奇跡此れ程迄に 愛しいものに出遭えて嗚呼 なんと云う偶然どうか 今もう一時 せめて紫紺が光に染まるまで闇の影には 死の翳りよ振り向くな ゆく先は一つしか無い走り 走れ 心燃え尽きるまで諦めてくれるな 最後の一時までも逃げて 逃げろ しがみついても此の確かな詞を 墓標に記し瞳で応えて只 其れだけで良い微笑を浮かべて只 其れだけで良いそして 別れの睦言よ来世で また出遭うことを紫紺を蝕む光の中で虚空に浮かべよ********