ホワイトルームで待ちながら
弟が死んだ。午前4時5分。57年10ヶ月と24日の生涯だった。大腸がんが見つかったのが2015年4月。手術したが同じ場所に再発したのが2015年12月。残された時間はおよそ一年だろうと覚悟したが、ほぼその通りになった。夏からは入退院の繰り返しだった。弟のがんは珍しいタイプで、転移はしないが抗がん剤が全く効かないというもの。抗がん剤は有害なだけだった。人間が死というものを意識するのは何歳くらいだろうか。自分を振り返ってみると、5歳くらいだったような気がする。父と母、そして弟が同時に溺れて、だれかひとりしか助けられないとしたらどうするか。そんなことを考えて泣きそうになったのを覚えている。病気が進行すると、病人はわがままになる。弟も例外ではなかった。しかし一週間ほど前、「今日は本当にありがとう。ネムっていたら軽く起こしてください」という書き置きがあった。それを見たとき、死が近いと直観した。その紙は宝物になった。