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カテゴリ:読書
「神様がくれた指」(佐藤多佳子)を読みました。
天才的な腕を持つ職人気質のスリと、借金をするほどギャンブルにハマり込む占い師の、奇妙な出会い。 初めのうちは、互いに関係なくそれぞれの身に別々の出来事が起こっていたはずなのに、読み進むうち、偶然が重なって、同じ事件に巻き込まれていきます。 スリと、占い師なんて。こんな偶然なんて。 ありえないのに(ありえないから?)面白いです。 ありえないけど、ぐんぐん引き込まれるように読んでしまうのは、説得力があるから。 心理描写や、登場人物ごとの言葉遣いの使い分けが上手い。 状況は違っても、こういうことを考える瞬間はあるよな、と思うところがいっぱいありました。 話し言葉のイキイキした感じは本当にすばらしく、文章でこんなにリズムが伝わるものなんだな、と感心しました。 そして、「職人気質の」スリや、占い師という設定も、案外今の時代を突いているような気がしました。 いいことと悪いことのタガが、ともすると簡単に外れてしまいそうな時代。 残酷な犯罪を扱った小説がたくさんある中での、スリ。 熟練の技を必要としない、引ったくりが増えているという時代での、職人的なスリ。 「悪」なんだけど、読んでてついシンパシーを感じてしまいます。 占いというのも、私は興味がないのですが、今の世の中好きな人はとっても多いです。 ま、昔から占いはありましたが、この小説のマルチェラの描き方を見ると、宗教以外のものに擬似的な「神」のような存在を求めて精神的に依存しがちな、最近のある種の人々の様子が、よく表れているように感じました。 ときどき、グルグルと螺旋階段を昇ってるか降りてるかしているような気がするときがありますが、この小説のエピローグもそんな感じがしました。 長い時間かかって、ぐるっと回ってようやく見たことある景色にたどり着いた、と思ったけど、前とまったく同じ場所にいるわけではない。 そんな風に、ちょっとずつ物事は進んでいくのか。な~んて思いました。 最近この作家が続いているのは、古本で買い溜めたものが底をつき、母が読んだのを拝借しているから。 ウチの母は最近、「カタカナの名前が出てくるモンは登場人物が覚えられないから読まない」と言います。 母はここんとこ、昔読んだ有吉佐和子とか、つかこうへいを、また新鮮に読んでます。 「あんたこれ買ったん」…い~え!あなたのお古を、むか~しに読ませてもらいました。 まー、安上がりだけど。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008.10.25 00:32:46
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