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カテゴリ:読書
「過去からの弔鐘」(ローレンス・ブロック)を読みました。
「アル中探偵」マット・スカダー・シリーズの第1作目です。 最初に読んだ「八百万の死にざま」では、自分がいかにアルコールに依存しているかを認識しもがいている様子が描かれ、次に読んだ「処刑宣告」ではすでにアル中探偵ではなくなり新しい人間関係が築かれていますが、 この1作目では、アル中とか依存なんて言葉さえ出てくることもなく、空気を吸うのと同じような感覚で、常に飲み続けている様子が描かれています。 しかし、それに関しては文中で特に何も触れていません。 しっかり人物設定をし、すでにシリーズの次作以降の展開もある程度考えていることが感じられ、すごい作家だと思いました。 今回のハナシは、殺人事件の犯人が自殺し、刑事事件としてはすでにカタがついてしまっているというところから、始まります。 犯人を見つけて事件を解決するのが目的ではなく、被害者となった娘のことを知りたいという父親のために、過去を調べていくと…という趣向。 なるほどと思ったのは、主人公のマットは、何人かの過去や秘密や、この悲劇に関係する事実を知るのですが、 それらを、互いに係わり合いのない人には伝えず、事実の説明をするときも秘密を暴露しないよう相手によって伝える内容を限定していることです。 警察のように、調べて分かったことすべてを、明らかにする必要はなく、これこそが私立探偵としての倫理ということなんだなあと思いました。 推理小説としては、この作品はちょっと意地悪です。 前半に、いくつかヒントに見えるようなものが散りばめられているのですが、それらを繋ぎ合わせても、正解は出てきません。 でも、筋書きが分かってから改めて読み直すと、マットとの会話で後ろめたい気持ちの時は視線をそらせたり、なにかしらサインがあったりします。 そういう、ちょっとしたサインなどを見逃さずに、言葉巧みに相手に本音を言わせる場面が、読んでて面白かったです。 この作家のものはだいたいこういうカンジなのか、それともこのシリーズ独特のものなのか、分かりませんが、 ミステリなのだけども、ときどき、出てくる言葉が人生論的だったり哲学っぽかったりします。 そして主人公のマットは、しっかり調べるのだけども、その過程をあまり詳しく描くと種明かしになってしまうので、 暗中模索の状態から何をどう考えたり迷ったりするのかとか、思いがけない発想がどんなところから生まれてそれが問題解決のヒントになるか、というようなところが描かれています。 そして最後に種が明かされたとき、読む側としては、自分の推理が当たったかとか物理的・時間的に無理のないストーリーかということだけでなく、 人生とか世の中とか、人間関係とか家族とかについて思いをめぐらせることになるのです。 時代を超えて、読むことの出来る小説です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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