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カテゴリ:読書
「クリスマス・プレゼント」(ジェフリー・ディーヴァー)を読みました。
短篇集です。 優れた長編小説が書ける人でも短編もうまいとは限らない、というか長編も短編もうまく書ける人を、私はあまり知りません。 これまでに読んだ人では、ピーター・ラヴゼイはいろんなタイプの小説がかける人でした。でもたいてい、面白い長編の作者の短編は、期待できないというのが相場ではないかと思います(この本の解説でもそう書かれています…)。 これまで読んできたリンカーン・ライム・シリーズが、どれも上下巻2冊のボリュームがある長編だっただけに、この作者の短編を読んだらきっと、ガッカリするんだろうなと思っていました。 が、その心配は見事裏切られました。 16篇あるなかで、私が面白いと思ったのを挙げてみます。 一番面白かったのは、「サービス料として」。 こういうことを思ってはいけないのだと、何度言われても考えてしまうのが、精神を病んでいると自ら申告する人の詐病ではないかと思います。 私自身、最近増えている病気の一部は、自分で自覚していないだけで、本人にとって利益になる立場を手に入れようとしているものではないかと思っています。 信頼や自尊心を捨ててそういう手段にでてしまうのは、確かに正常ではないわけですが、自ら病気ですということで、ラクになれる人はまだ土壇場にはいない余裕のある人ではないかと思ってしまいます。 そう考えることこそが正常な証拠なのであって、「理解」しようとしないといって非難したり、そういう発想をしてしまうことを隠して理解のある善人のふりをすることの、罪といったものを、誰しも考えるのだけどおおっぴらには言えない。そこをうまく突いた作品だと思います。 去年亡くなったある人の報道を見ていて私が一番に思ったのは、表面上はうまく付き合っても、医者と患者が互いに尊敬しあうことが出来ず、互いに手段として利用する対象として見てしまうことの不幸、といったことでした。 そんなことを、この作品を読んでまた考えたりしました。 「三角関係」は最後まで読んでから最初に戻って、スバラシイ!ケッサク!と思いました。 私がこどもの頃いやだったのは、母に連れられてデパートに行ったりして歩くたびたくさんの大人がこっちを見ると、みんな私を見た途端急に眉を吊り上げびっくり目をして、変な顔をすることでした。 横にいる母にはそんなことしないのに、どの人も初めて会うのに、私にはみんな同じことをするので、こっちはブスッとした顔で睨み返していました。 いい歳のおばさんになってみると、私も子どもと目が合うと自然と目を大きくして同じような顔をしてしまいます。 こどもの頃は、自分のことを周りの大人と同じように考えています。 おとなはそんなことを忘れてしまうけど。 ほかにも、美しい女性の不幸を自ら打ち破った「ビューティフル」は痛快だし、「ノクターン」は温かみがあり味わい深い作品。 そして最後の「ひざまづく兵士」は、「三角関係」「ビューティフル」と、それからリンカーン・ライム・シリーズ3作品目の「エンプティー・チェア」の要素がある深い作品で、読後の余韻があってよかったです。 全体を通じて、人の心理の怖さや深さを扱った作品が多くあり、これらを読んで、この作者の小説が、いつもあっと驚くどんでん返しの連続でありながら、読んでいてなぜ展開を突飛でこじつけられたものと感じないのかが、よく分かりました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.03.18 09:57:28
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