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カテゴリ:読書
「チャップリン自伝-若き日々」(中野好夫訳)を読みました。
いつも行く本屋の古本コーナーでずっと、この本はしょっちゅう目にしていましたが、読んでみようと思ったことはありませんでした。 チャップリンというと、高校の英語でライムライトをやった頃がちょうど文化祭のシーズンで、ライムライトの現代版を撮ろうということになり、放課後、踏み切りで自殺しようとするりっちゃんをA君が救う、みたいなバカなのをビデオで撮ったことが思い出されます。 が、テレビで、こっけいな動作の有名なシーンを観る機会はあっても、どういう人なのかは、あまり知りませんでした。 生まれた頃から、幼少期、学校に行かずに育った少年時代や、その後の演劇人生の、興味深いエピソードが次々に出てきます。 貧しく本当に何も食べるものがなかったときのことや、貧しさのあまり母親が精神に異常をきたしたこと、5歳の初舞台、12歳で初めて劇団に雇われたこと…。 波乱に満ちた少年時代ですが、60を過ぎてからそれらを回想し、そのときの周りの色やにおい、どんなにうれしかったかや悲しかったかを、明るく率直な文章でつづられているのが印象的でした。 よくない出来事についても、たくさん書いてあるのですが、書き残したくないことについては触れていなかったり、これまで関わった人に気遣いがあったりするところに、この人の人柄を見るような気がしました。 ちょっと気が弱いところがあって、とても感情の豊かな人だと思いました。 なぜ喜劇なのか、また、なぜこっけいな中に悲しみがにじむのか。 エピソードを交え、その原点や思いが、所々に出てきます。 オリジナルなものが生まれてくる、その発想や感性といった創作の原点の部分が、本人の表現で語られているのがすばらしいと思いました。 次第に成功の階段を昇っていく過程でのエピソードも、面白いものがたくさんありました。 たとえば、ドビュッシィが会いにやって来て絶賛しても、「聞いたことないねえ」と無頓着だったり、 贅沢がしたくなって最高級のホテルに泊まり落ち着かない気持ちで贅沢を味わったものの、すぐにバカらしくなったり、 初めて見たオペラで、歌詞がドイツ語で全く分からないのに、目の前で繰り広げられている場面のひとつひとつに、これまでの自分の苦労のすべてが集約されているような気がして、激しく泣き出してしまったこと、など。 また、高齢になった著名な名優に、「ニューヨークへ行ったら、大衆の目から出来るだけ避けることだ、友人もせいぜい一人二人を選べ、後は創造で満足しろ、みんなに観られて褒められたがり失敗したものが、いくらでもいる。世界を征服した君がそれを続けたいのなら、常に世界の外にいることだ」とアドバイスされたこと。 大衆の好意を求め続けそれが得られたときに、皮肉にも、孤独の只中に寂しく置き去りにされた、という表現。 訳者のあとがきに、元は66年刊行のものが81年に3部に分かれて出版されたとあります。「栄光の日々」というものがあるらしいので、見かける機会があれば読んでみたいです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.06.21 16:53:54
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