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カテゴリ:読書
「ワイルド・スワン」(ユン・チアン)を読みました。
この本がすごいらしいということは知っていましたが、これまで手にする機会がなく、ようやく古本で3冊300円で手に入れました。 内容が濃すぎて、感想がうまく言葉にならないほどです。とにかく、この本に出合えてよかったです。読むべき本というのはやっぱりあるんだと思いました。 この小説は、中国という国家が歩んできた道と、その中で生きた人々の暮らしを克明に描いたノンフィクションです。 著者と、その母、そして祖母の3代の女性の人生を軸に据えて、国家の体制の変遷が、国民一人ひとりの日常をどのように変えていったのかが詳しく描かれています。 昔教科書で読んだ内容もあやふやになりかけている私にも非常に分かりやすく、形而上的でなく実感を伴い切実に心に訴えかける内容でした。 夜寝る前に、悲惨で残酷なところを読むとズドーンと気分が落ち込みましたが、やっぱり最後までこの本にかかりきりになって読みました。 特に、大変な状況を描きながらも、ひょこっとユーモアが顔を出す表現が魅力的。つらい時代を生き抜いた精神的なたくましさが感じられました。 著者自身、兄弟のユーモアある発想と発言に助けられ、そういったものの考え方が当時の思考の抑制から自立するひとつのきっかけになった、というようなことを書いています。 この小説は、家族の結びつきがクローズアップされているのが特徴だと思います。 自分自身が体験したことだけでなく、小説の冒頭は祖母の人生から始まり、さらにその曽祖父母の代のことにも触れられています。 今の自分ですべてが始まったのではなく、前の代の生き様があって今がある、という考え方。 もちろん、個人の自由というものがなくちょっとした発言でも家族全体が責任を負わされる社会であったということが大きいのですが、 そういう世の中にあっても、著者の家族はほかの家族よりも結びつきが強く、肉体的精神的に困難な状況にあっても、家族愛が大きな支えになっていたという経緯から、こういう描き方になったのだろうと思いました。 何より、自分が体験した出来事以外に、母親や家族から丹念に話を聞きだして書かれていることが、家族の結びつきの強さを表していると思います。 この本が出て、何年か経って天安門があって、そして今があって。 そう考えると、ここに描かれているのは単に昔のこと、過去のことではなく、今につながる、ついこのあいだのことだという気がしてきます。 今の中国の、何でも度を過ぎてやりすぎるモーレツなカンジも、これを読むとちょっと分かる気がしました。 今の若者たちの後ろには、こういう時代がつながってあるのだなあと思いました。 この本を読みながらふと、「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」(米原万理)を思い出しました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.12.15 15:56:37
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