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カテゴリ:読書
「石のささやき」(トマス・H・クック)を読みました。
これまでいくつかトマス・H・クックの作品を読んできて、その多くに共通点があることに気づきました。 一つは、小説の形式に関することで、前にも書いたように事件を回想する形式であることが多いこと。 主人公が語り手となって話が進んでいくのですが、さらに、前回の「緋色の迷宮」と今作品では、その主人公が語っている様子をさらに俯瞰して見ている、小説全体としての語り手(父親)が存在するという形式になっています。 また、主人公の子供時代からさかのぼって描かれることが多く、主人公は概しておとなしく、いかめしい父親に威圧感を感じており、その期待に応えられない後ろめたさを常に感じて萎縮しており、それが大人になってからの自信のなさに繋がっています。 さらに、 ・主人公が弁護士 ・ティーンエイジャーの我が子に不安を感じている ・精神を病んだ人物が出てくる という設定がたびたび出てきます。 そのほかにも、女性はすらっとしていて芯の強い人物が多く、「熱い街で死んだ少女」以外は白人社会を前提としています(私がこれまでに読んだ中では)。 読んでいると、ああ、あの話にもこういう部分があったな、と思い出すことがよくあります。 しかし、ワンパターンだと感じることはありません。 いつも、人間の心の微妙な動きや変化が丁寧に描かれていて、人の心とはなんと奥深いものなんだろうと思わされます。 同じような設定にすることでかえって、中心に据えられた人の心の複雑さや難しさの描写が際立つように思えます。 今回は、統合失調症の妄想や幻聴が取り上げられています。 精神が異常であることとそうでないことの違いは、どこにあるのか? 私たちは、なぜ自分は正常だと自信を持って思えるのか? 案外、正常と異常の境目は曖昧なもので、物事を深く突き詰めて考え続えその境目を越えてしまうことがないよう、私たちは用心深く途中で引き返しているだけなのではないか? こんなことを思わされてしまう小説でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011.04.02 13:49:14
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