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カテゴリ:読書
読みたいもののリストのトップにあった本を、母が買ってきました。
ところがちびちび読んでは、書いてあることをペラペラしゃべる。私は気のない生返事。「黙って早う読めっっ!」と心の中で突っ込みながら。 昨日の晩、やっと読んだというので、さっそく。 「三陸海岸大津波」(吉村昭)を読みました。 吉村昭は大好きな作家です。 歴史上よく知られた人物や英雄を扱うのではなく、あまり知られていないけれどもすごい生き方をした人を、たくさんの史料を調べ綿密に取材して描いた人です。特に「羆嵐」や、「漂流」、「破船」、「破獄」、「戦艦武蔵」などは強く印象に残っています。 けれど、この作品は話題になるまで知りませんでした。 この作品は、物語の形式ではなく、著者が調べた内容をまとめたという形をとっています。 大仰な比喩や描写がなく、そっけないほど客観的に事実が並べられていますが、そのためにかえって、この地域を何度も津波が襲い甚大な被害に見舞われてきたことに、著者が深く心を痛めていることが伝わります。 明治29年と昭和8年の津波では、直前にマグロ・イワシ・カツオが異様なほど豊漁であったり、井戸の水が濁ったり枯れたりしたなどの前兆と思われる現象があったこと。 貞観の大地震から始まって、何度も何度もこの地域に地震と津波があったことが記録に残っていること。 チリ地震津波のように、この地域に地震がないにもかかわらず起こった津波についても、外国の記録と照らし合わせて何度もやって来ていることがわかっていることなど、これを読むと、過去の記録から多くの教訓が得られます。 その中で、特に強く印象に残ったことをいくつか挙げると。 まず、チリ地震津波の際に、気象庁がチリでの地震と津波の発生を知っていたにもかかわらず、警告を出さなかったことを、いくつもの資料をを示し冷静に、厳しく指摘していること。 また、明治29年と昭和8年の津波で最も被害の大きかった田老町では、その後避難訓練を行うようになり、それは昭和8年の津波を記念して毎年3月3日の、午前2時31分39秒にサイレンを鳴らして始められるという徹底ぶりで、そのおかげでチリ地震津波の時は人的被害がなかったという記述には驚きました。 確か新聞で、この地区ではないと思いますが、避難訓練は何度も繰り返されてきたが、身体の不自由な高齢者でも容易に足を運べるように、避難場所を実際とは異なる場所で行っていたために、今回の津波から避難するのに間違った場所を目指して犠牲になった人がいた、という記事があったと思います。 そして、この作品が2度目に文庫化された際の著者の言葉の中で、沿岸地域の住民のほとんどが津波を体験していないことに気づいた、と述べています。 全体を通して、読みながら、集団心理や、その場の雰囲気に合わせることの怖さということを考えました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011.05.29 17:43:56
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