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カテゴリ:読書
「夜の記憶」(トマス・H・クック)を読みました。
これまで読んできたクックの作品とは、少し趣が違いました。 私にとってクックの魅力は、こういうミステリーもあり得るのだという新鮮な驚きにあります。 ラヴゼイのようにミステリー小説の古典の手法に挑んだり、ジェフリー・ディーヴァーのように科学的な最新の手法を駆使して話をひねりまくって何度もどんでん返しを繰り返したりといった種類の「謎解き」ではなく、ある悲劇について、少しずつさり気なくその情報を小出しにして読者に何が起こったのだろうかと推理させるように話を進めるのです。 ミステリー小説というと制約があり限られたジャンルのように思いがちですが、こういうこともできるのかと可能性を感じられるところが好きなのです。 それがこの作品では、犯人は誰?何がどのように起こったのか?誰が嘘をついているのか?アリバイは?といった、いわゆる「謎解き」のミステリーになっています。 エンターテインメントに徹した作品だと感じました。 また、過去のゾッとするような恐ろしい出来事の描写が、全編にちりばめられています。 これも、スリラーの要素を前面に出して怖さを楽しむようにしてあるのだと思いました。 また、これまで以上に映像的だとも感じました。 以前から見られた、行や段落を変えず、続けざまに異なる場所や時代の描写を入れて、現在の出来事から過去の出来事がフラッシュバックのように鮮やかによみがえる様子をいわばカットバックのように表現する手法も見られましたが、 今回はさらに、舞台の一つである大きな館を、立体模型のように屋根をとって上から俯瞰するように描き、その中の複数の人々の動きを同時進行で見せようとする描き方が、とても新鮮でした。 クックはこれまでの作品でいつも、ある程度時間の経った過去の、同じような場所での出来事を描いていますが、今回の作品の主人公も、ずっと過去に時代設定を置き同じ登場人物が出てくる暗い小説をシリーズで書き続けている作家となっています。 なんだか、この人物設定自体がクックっぽいなあと、読者に思わせることを狙っているのです。 こんなこともできる人なのか、憎いなあと思いました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011.07.06 08:36:11
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