|
カテゴリ:読書
「ハツカネズミと人間」(ジョン・スタインベック)を読みました。
スタインベックといえば「怒りの葡萄」、…の映画を観たことがあるだけ。 こういう作品があることさえ知りませんでした、古本屋で見かけるまで。 30年代のアメリカでの、農場から農場へと渡り歩いていく、流れ労働者の世界が描かれています。 身ひとつ、体だけを資本に生きていく。 希望や目標が持てない生活が続く中、賃金を手にしても、手軽な遊びに使ってしまい、いつまでたっても蓄えは残らない、その日暮らし。 ちょうど、こないだ読んだディック・フランシスの「興奮」でも、厩舎で働く厩務員たちが、仕事場に寝泊りし一日中過酷な肉体労働に明け暮れて、やっと手にした給料を、近くの街でパッと使ってしまうような生活をしていて、読んでいてそのすさんだ感覚に驚きました。 搾取され続ける過酷な状況で長年生き続け、何も希望を持つことができない。望みを持つことさえ恐れるようになる。 そんな中で、ジョンとレニーの二人は、お金を貯めて自分たちの土地を持ち耕して暮らしていくという夢を持つ。 どんなものを植え、どんな動物を飼い、何を作って、どうやって暮らすかと、具体的に夢を語り、それを目標に生きていこうとするが、ちょっとしたはずみで、あっけなくすべてがもろくも崩れてしまう。。 タイトルにあるハツカネズミは、話の中ではほとんど出てきません。 人間の世界から見て、ハツカネズミは、取るに足りない、モノのように軽んじられてはかない存在。 実際、この話の中でも、その死骸をポンと放り投げて捨てられます。 反対に、人間は意思を持ち希望を持って生きる存在。人格があって、欲があって、魂がある。 その存在の重みは正反対のようだが、その人間も、実際にはハツカネズミと変わらない、希望も何もあっけなく潰されてしまう、所詮はかない存在だ。 …というような意味のタイトルなのかなと思いました。 この世の不条理を、単純化して分かりやすく見せ、人間の尊厳とは何かを考えさせる作品です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011.07.15 23:28:24
コメント(0) | コメントを書く |