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カテゴリ:読書
「打ちのめされるようなすごい本」(米原万里)を読みました。
1年前に書店でちらっと立ち読みしたとき、一文一文にえいやっと力がこもっていてものすごい意志を感じるなあと、本を置いて立ち去りながらも後ろ髪を引かれる思いがしたので、古本屋で見かけて飛びつきました。 著者の友人である作家が、この本を読んだらもう書けないと打ちのめされた本というのが、私が好きな作家トマス・H・クック。 それに対し米原万里はクックを2冊読んで、丸谷才一の「笹まくら」の方がもっとすごいと薦めます。う~ん、クックのファンとしては丸谷才一も読んでみなければなりませんでせうか、あの文体に手を出すのが億劫なんですが。。 通訳をスラスラとこなせるだけの語学力は、と聞かれて、その言語で小説が読みこなせるくらい、日本語でもねと答えていた著者は、週に7冊のペースでの読書を20年続けていたという無類の本好き。 書評を書くにあたっては、なるべくいい事を書き悪いものについては無視するべし、という誰かの言葉を引用していることから、書評に取り上げた作品はかなり選ばれたものであると考えられます。 マイナーな出版社から出された聞いたことのない著者による作品を多く取り上げ、優れたものを力の限り激褒めして応援しているのを読むと、よい心の持ち主だなあと思います。 時には、売れに売れまくっている駄本(「声に出して読みたい~」とか「~な人、~でない人」の類い)をバッサリ斬ることもありますが、基本的に書いてあることに強い好奇心を持ってグイグイのめり込んで読み、その内容を積極的に評価するという姿勢です。 そして、好きな作家には、大いに肩入れしつつ、ちょっとだけ辛いコメントも添えているところに、強い愛情を感じます。 情が濃くてやさしく健全な精神の持ち主であることがよく伝わってくるだけに、体調を崩してからの記述にはとても心が痛みます。 著者が悪戦苦闘の末亡くなったのはもう何年も前のことなのに、爪をもんだり体温を上げればすべての病気が治る、というような同じ内容のたくさんの本が、この頃から今と同じように売られていたというのには驚きました。 保険の利かない高価な治療を謳う医師や、必要な治療を遠ざけてしまう代替医療など、病気になってはじめて知る世界というのがありますが、そういう商売を生業とする人たちの言動も、抑制の効いた冷静な文章で書かれてあり、それだけに読む方としては余計に感情が揺さぶられます。 世界情勢など政治に関する話題も多いのですが、90年代から2005年頃までに書かれたものなので、ブッシュ政権や小泉政権の批判など少し前の話題になっています。 ブッシュの戦争好きに関しては、オイルビジネスにおけるビンラディンとのつながりや、パパ・ブッシュのカーライルについてや、ネオコンの台頭などの指摘が興味深かったです。 湾岸戦争時の劣化ウランの使用によるイラクへの放射能汚染や、イラク戦争の混乱時に米軍が核施設を管理せず住民がイエローケーキを持ち出すのを放置したことにより、白血病やガンによる死亡が急激に増えていることが書かれていますが、最近も新聞で、さらにガンの罹患率が激増していることが取り上げられていました。 小泉政権時の民営化路線や、過度の合理化による利潤追求の問題への言及も、今読むと改めて示唆に富んでいます。 今の、アメリカの強硬な保守派や、日本の震災後における感情の沸点の低下を煽るような風潮と、加害意識を忘れた被害者意識などを、この人だったらどのように言うだろうなあ、惜しいなあと思いました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011.08.06 18:15:12
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