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カテゴリ:読書
「悪童日記」(アゴタ・クリストフ)を読みました。
面白そうだと思った本のタイトルを頭に入れておいて、古本屋を物色する日々ですが、このタイトルはいつどこで自分のアンテナに引っかかったのか、どうしても思い出せません。 とにかく背表紙をひと目見て、あっこれこれ、と飛びつきました。そして、大当たりでした。 戦争が激しくなり、母親の元を離れて祖母と暮らすことになる双子の男の子。 おばあちゃんは町の人たちに「魔女」と呼ばれ、荒んだ暮らしをしており、ふたごたちは厳しい生活をしなければならない。 しかし一心同体のふたりは、したたかに生き抜き、自分たちで勉強することにし、互いに作文を書くことを課す。 この小説は、その文章を清書したノートの内容という形をとっています。 こどもの視点から書かれているので、場所や時代など詳しいことは推測できるものの書かれていません。 こどもにとって歴史的経緯や政治はまったく関係なく、ただ自分の世界すべてが初めから戦争のただ中だった、という子供時代が描かれています。 こどもだからこそ、当たり前のようにものすごい勢いでどんどん身に付けていく、残酷さ。それを残酷と思わず、ただ生きるための必要性から身に付ける価値観。 一方で、打算など余計な考えのない、弱いものに対する自然な優しさ。 双子たちには、相反するように見える価値観・感情が、矛盾せずに同居しています。 極限まで言葉が切り詰められ、各章を数ページにまとめた簡潔さは、象徴的で、シリアスな内容ではあるもののそれぞれの章が絵本のようでもあり、短い芝居のための戯曲のようにも感じられます。 読む人によって、いくつもの意味合いを読み取ることができます。 読み終わった後、外を散歩していたり、何気ないときに、この小説のことをあれこれ考えて、後から後から味わいが増してくるような小説です。 クダクダと難しいリクツを述べることなく、端的に、戦争に大儀なしということを表現していると思いました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011.08.14 16:19:04
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