|
カテゴリ:読書
「迅雷」(黒川博行)を読みました。
この人の本の面白さは、大多数の人にとっては謎の、裏の世界のことが詳しく書かれているところ。何でそんなこと知ってるの?と言いたくなるようなことが次々に出てきます。 たとえばこの作品では、大学の理事会の選挙の票がヤクザのシノギとして使われています。 実際そんなことがあるのか?具体的な例を知っているのか?と、興味が尽きません。 また、舞台が大阪で、知った地名が次々に出てくるので、情景がリアルに目に浮かびます。 今回は箕面から関空まで、ヤクザと、身代金目的にヤクザを人質に取ったどうしょもない奴らが、車で追いかけっこします。 ヤクザを人質にって。。なんちゅう素っ頓狂なことを考えるのだこの人は。 「極道なら身代金目的の誘拐にあっても、警察に被害を届けないだろうから、なによりうまみがあるはず」、というリクツなのですが、そうなんですか?と、首をひねります。 そこには、極道の世界ではこのような場合違法行為によって問題を解決する、さらに、極道の世界の人間にとってはシロウトの人間にしてやられることは最大の恥だから被害を警察に届けることはない、という前提があるわけなのですが、そんなもんなんかな、私にはどうもピンときません。 いまどき身代金目的の誘拐っていうもの自体、とんと聞かないし、それは成功する確率が低く割が合わないからで、警察による強制力で捜査して解決するのが一番効率がいいということじゃないかと、なんとなく感覚的に思っていました。 だから、指定暴力団でも、堂々と警察に言えばいいじゃん、と思ったのですが、そうはいかないかやっぱり。都合の悪いことが芋づる式に出てくるか。それに、警察も人間だし。 でも今の時代のヤクザにも、自分は極道だから…というような気概というか精神性を持っているものなのかなあ、それは映画や小説の世界にのみ残るファンタジーなんじゃないのかなあと思ってしまいました。 ま、でも、確かに今の時代にもこういう組織の力によって物事を解決してもらおうという人がいるということが、ちょっと前に話題になったことでもあるし。 世の中の表層だけに気を取られていると見逃しがちだけど、あるんだな今も実際に、威圧的な言動を生業とする世界が。 そういう意味では、時機に適っていて面白かったです。 しかし、いつも思うのですが、この人は基本的にミステリー小説を書くのが向いてないと思います。 描かれる世界は面白いのだけど、ストーリー展開があまりにワンパターン(そう感じるほど何冊も読むのも悪いんだけど)。 ヤクザやチンピラらが繰り出す語彙も貧弱。「おどれ」(「おのれ」の意味)なんて言うの?ほんとに。 ストーリー自体はしょぼくても、よくぞここまで書いた、と思えることもありますが、今回はそういう暴露的なものはそれほどなく、読み応えがちょっと物足りなく感じました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011.09.21 23:14:40
コメント(0) | コメントを書く |