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カテゴリ:読書
「チャイルド44」(トム・ロブ・スミス)を読みました。
いつも古本屋を漁っていると、よく目にする本というのがあります。 それらはたいてい、いわゆる古典となった名作であるか、一時期大々的に広告を打って売りまくった流行作家モノであることがほとんど。 このタイトルもしょっちゅう目にしていたので、流行ってるっていうから買ったけど…的な本なのだろうと思い手をつけずにいたのですが、チラッと扉を見ると作者は若いイギリス人なのに、30年代のソ連を舞台にしているとあり、これはもしかしてすごいんではないかと読んでみたところ、ビンゴでした。 前半は、ウクライナでの大飢饉から始まり、ソ連のスターリン時代の粛清政治がそこに生きる一人ひとりの暮らしにどのように根付いていたのか、恐怖、理不尽さ、裏切り、無力感などが描かれているおり、吸い込まれるように夢中で読んでいきました。 中ほどまでは、タイトルの意味が分からず、ただそういえば時々思い出したようにチラッとこどもが出てくるな、というカンジ。 それが、どういうことかが分かってきた時、衝撃を受けます。 日頃狂気に満ちた犯罪を扱った小説を読みすぎている弊害で、ここまでしては現実味に欠けて安っぽく感じちゃうよ~と思ってしまったほどですが、あとの解説を読むとこれは実際に起こった事件を元に書かれたものだとか。 まさに現実は小説より奇なり。 その事件については本やテレビ映画にもなっているそうですが、この小説の優れているところは、このような事件が起こった背景とソ連の体制の問題を結び付けているところ。 そして、そのことをただストレートに書くのではなく、あくまで娯楽小説として読ませているところ。 さらに、実際に起こった78~90年ではなく、時をスターリン時代に移し、重層的に描いているところ。 ロシアではこの小説は発禁扱いになっているとあとがきにありますが、確かに旧体制とはいえこのように批判されては面白くないと思いますが、ここに描かれていることはたんに東側の問題ではなく、どの時代のどの組織にも起こりうる、普遍的な問題であるように思いました。 政治や特定の思想や宗教にかかわらず、普遍的な価値観、人間が根源的に求めるもの、といったものについて、特に今年の世界的な流れから考える機会があったので、より興味深く読むことができました。 ま、ただ、この主人公と弟のつながりっていうのは、ちとチープな感じがせんでもなかったかな。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011.10.09 13:23:26
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