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カテゴリ:読書
「闇に問いかける男」(トマス・H・クック)を読みました。
翻訳本を手に取るといつも思うのですが、タイトルにセンスがない。 原題はTHE INTERROGATIONなんだから、そのまんま尋問とか取調べでいいんでないの。 クックには男シリーズや女シリーズ、記憶シリーズなどがありますが、記憶シリーズであろうとなかろうと、クックは全部記憶がカギになるんであって。 闇とか、ミステリーにありがちな言葉をなんとなく使うところが安直。 ローレンス・ブロックなんかもっとひどくて、安っぽくて笑ってしまうけど。。 ま、それはさておき。 この話では、あと11時間のあいだに、容疑者に容疑を認めさせないと拘留を解かねばならないという状況での、取調室での刑事と容疑者とのやり取りと、わずかな手がかりを頼りに夜中じゅう調査に回る刑事の動きなどが描かれています。 各章には、たとえば「おれたちだけでかね?」というような会話文のタイトルがつけられ、刻々タイムリミットに近づいていく時計の針のイラストが添えられています。 いつものクックの作品とはちょっと趣が違い、よりエンターテインメント性が高められた作品だと思いました。 時計のイラストが何度も出てくるところなんかは、ジェフリー・ディーヴァーの「ウォッチ・メイカー」みたい。 そのせいか、はじめの方は読んでいて、いつものクックのものより面白味にかけるような気がしました。 複数の登場人物それぞれの事情が、プツンプツンと細切れに描かれていて、いつものような繊細さがなく、薄っぺらで表面的な感じがして、感情移入ができませんでした。 しかし中ほどに進むにしたがって、歯車がかみ合いだし、全体が見渡せるようになると、時間の進行とともに各人の行動や感情が複層的に描かれるようになり、重厚な物語として、じわーっと面白味が増して感じられるようになりました。 小説全体を通して、「選択肢」という言葉が繰り返し出てきます。 いろんな人物が、こうするよりほかに選択肢はなかったとか、ほかに何か選択肢があっただろうかなどと、繰り返し自分に問いかけたり、相手に話しかけています。 ラストの終わり方を読んで、これは、たとえ選択肢がないと思えるような場面や状況・立場であり、絶対的に不利で勝ち目がなく絶望的でも、じつは選ぶ余地があるのであり、決して結果がすべて決まってしまっているわけではないのだという、絶望の中にある希望、最後まで諦めないしぶとさなどを指しているのではないかと思いました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011.11.10 08:58:23
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