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カテゴリ:読書
「グラーグ57」(トム・ロブ・スミス)を読みました。
「チャイルド44」の続編です。 前作では、スターリン体制を時代背景として描いてはいましたが、話の中心は政治犯ではなくフツーの(というか異常ではあるんだけど)連続殺人事件でした。 それに対して今回は、政治体制や社会そのものが中心として描かれています。 フルシチョフが行った秘密報告とスターリン批判が、スターリン体制時に恐怖政治下で政府職員として働いていた者をどのような立場に追いやったのか。 なぜスターリン批判をしたのに、その後一直線に人道的な路線を進まず再び軍備を拡大しハンガリー動乱など国外にまで暴力を拡大させたのか。 といった国家レベルの問題が、暴力の加害者と被害者、体制側と支配される側、さらに体制の中にも複数ある立場の、それぞれについて考え方が描かれています。 しかしそのような国家レベルの話だけでは、そのような社会の中で生きることがどのようなものなのかが、あまり実感を持って想像できませんが、 職務上の義務であれば、残忍な行為も正当化されるのか、 一人ひとりの罪悪感や謝罪、 憎しみ、復讐心の連鎖、 家族や社会の中での人間関係、 子供時代が奪われてしまう問題など、個人のレベルの問題が描かれることによって、人を暴力や恐怖で支配する国家について、より具体的でリアルに理解することができました。 ちょっと物語がチャカチャカと進みすぎるというか、アクションシーンが雑にどんどん進んでいってしまい、重みがないのが残念なところ。 薄っぺらな印象があります。 ただ、これは作られたお話ではあるけれども、実際に起こった出来事の断片を繋ぎ合わせた物語で、一つ一つのエピソードは、この平和な世の中に生きている私たちには考えられないことだけれども、現実に起こったこと。 そう考えて読むと、俄然面白く感じられ、グイグイ引き込まれて、新快速の中で横に座る人が入れ替わるのもどこの駅を通過したのかも分からないまま、没頭して読みました。 こういうことが、娯楽小説として描かれているのがミソ。 作者が後で挙げている参考文献なんか、一生目を通すことがないだろうから。 これはソ連を舞台にしているけれども、東欧諸国でも同じようなことが起こったし、中国でも然り、北朝鮮では今もこんな世界に生きている人がいるわけだし。 また、爆発に巻き込まれた人を助けようとした人がまた爆発に巻き込まれて死んだり、人のお葬式に出たというだけで殺されたりする世の中に生きている人が、今現在もいるのだということを考えると、この小説に描かれていることは、たんに昔遠い外国で起こった出来事ではなく、どこにでもいつの時代でも見られる普遍的なことなのだと思いました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011.11.30 18:46:36
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