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カテゴリ:読書
「殺意の迷宮」(パトリシア・ハイスミス)を読みました。
ハイスミスの作品はいつも同じような話ばかり。 登場人物はいつも、デタラメのイカサマ師や、転がり込んだ遺産で優雅に暮らす若者。 そこに殺人が起こり、一応ミステリーとして話が展開するものの、次にどうなるのか?誰が犯人なのか?なぜ犯人はそんなことをしたのか?といった事柄の推理よりも、登場人物たちの心理の推移に重点を置いて描かれます。 今回も、これまでに読んだ作品と似たような設定で、似たような展開。 この心理描写を面白く思う人はこの小説を気に入るだろうけど、面白く感じない人にとっては退屈な小説に思うのでは。 思うのではってことは、私には面白く感じられたわけで。 普通、殺人事件が起これば、金銭問題とか憎しみや恨みの感情とか、何らかの事情があり、その事情がやむにやまれぬものであったり感情がもっともなものであったりすると、読んでいる方としても「分かる、分かる」と感情移入して読めて、面白く感じられるもの。 しかしハイスミスの作品では、なんでそ~なるの!?というようなひょんなきっかけで殺人を犯してしまい、その後も、なんでそんなことになるかなあ、というようなおかしな展開が続いていきます。 話の展開が全然合理的ではないのにもかかわらず、なんじゃこれ、とは思えず、「分かる、分かる」とすら思えてしまうのです。 おかしな展開だし、登場人物が考えることもおかしいことだらけなのだけれども、そこが逆に現実に即しているというか、この世の中に起こっていることをうまく表現しているように感じられます。 まっとうな仕事をしていないのに、鷹揚な態度で世の中を渡っていける人物。 読んでるこっちが恥ずかしくなるような、若者の独りよがりな心のうちや詩作。 合法的な枠を超えて詐欺商売に染まっていく人間の思考の、一線を越えるところでの垣根の低さ。 殺人犯の、罪悪感のない、自分に都合のいい思考回路。 抑圧的な父親の幻影に振り回される若者の心理。 敵対する関係なのに、サイコパス的な内面を持ち社会から逸脱した似たもの同士が、何となくひかれあいかばいあってしまうところ。 …など、合理的な説明はつかないけどこういうことってそこらじゅうでよくあることだ、分かる分かると思いながら読みました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011.12.08 18:14:55
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