|
カテゴリ:読書
たしか9月頃だったと思いますが、2駅先の大きな書店に行く機会があり、そこに「ハヤカワ文庫の100冊 強い物語。」という小冊子が置いてあるのを見つけ、持ち帰りました。
国内外の名作、スタンダードの100冊が紹介されていて、私が読んだことのあるものも10冊ありましたが、圧倒的に知らない本が多く、何となくタイトルは聞いたことあるけどというものもいっぱいあり。読みたい本が一挙に増えました。 私は自分で特別強欲だとは思わないけど、死ぬまでに読んでおくべき本というものはぜひとも読んでおきたい!という気持ちが強く、古本屋でコレッという本に出会ったときは迷わず買うという贅沢を自分にゆるしています。 その小冊子に紹介されていた本のうちの一冊に先日出会い、年をまたいで、「夏への扉」(ロバート・A・ハインライン)を読みました。 これは時間旅行を扱ったSFです。 私はSFが苦手というか、宇宙とかロボットとか時空などといったSFの世界は全然入り込めず何がいいのか全然分からないクチ。 でも、これはとってもよかったです。 作品が書かれたのは1956年で、舞台となっているのは1970年。 1970年っていうと今の私たちから見れば40年以上昔になりますが、作者から見ると近未来で、その時代には、人間を凍らせて冬眠状態にし希望の時間が経過してから解凍することで時間旅行が出来るという技術が出来ている、という設定。 主人公ダンはこの「冷凍睡眠」(コールド・スリープ)を使い、30年後の2000年を体験するのですが、この2000年の様子が、今の私たちから見るとトンデモハップン。 そもそも1970年の世界も、当然現実に起こったこととはかけ離れています。 でも現実の今の時代を、ドキッとするほど言い当てている部分も多々あり、作者が50年代の現実を生きながらその時代の出来事を風潮に流されることなく、大局的に捉えて時代の先を鋭く見通していたことがよく分かります。 今の時代の人には信じられないようなことが出来るようになっているという、SFならではの絵空事を、ただ肯定的に展開するのではなく、そのような技術がもし使われたらこんな困ったことになるという指摘や、そんな技術に頼ろうとする心は不健全であるといった批判、それから未来にはこんなことが出来るんだと言われても信じないのが現実的な人としては普通の反応である、などといった、SFの世界を苦手とする私のような人から見て、そうだよねと共感しやすい描き方をしていて、説得力を感じました。 人型ロボットを作ることには興味がないとか、家自体が全自動になるのではなく従来の普通の家の中に、主婦の仕事をやってくれるロボットがいることが人々をひきつけるはずだと考えたり、これまで人が手動で行っていたことを機械がやってしまうことによる労働の諸問題にも触れています。 この作者は、たんにSFによって、あんなこといいなできたらいいな~ということを書くのではなく、現実の世界の人々の関心や気持ちのありよう、政治などを、明るくユーモアをもって批判しつつ、でも全体的には将来に対して明るい希望を持って書いているように感じました。 現実に対して思うところを、ただ直截にこうだっ!というのではなく、こんな空想の未来の世界を描いてみることで、どう思う?と示して見せるのは、なかなか粋だなあと思いました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
|