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カテゴリ:読書
先月近所に書店がオープンしました。
さっそく偵察に行くと、出来たとことこなので、最近の本だけでなく、それぞれの分野で王道的な本がひと通り揃っていて、見ていてめっちゃ楽しい! 文庫本のコーナーをめぐっていてこの本を見つけ、面白そうだったのでいつか読もうとタイトルを覚えて帰った翌日、古本屋に並んでいるのを発見。 これは運命だわ~と思いながら、「ムーン・パレス」(ポール・オースター)を読みました。 物語がいくつも組み合わされていて、説明するのは難しいのですが、濃い~くて深い~小説でした。 主人公マーコは唯一の血縁の伯父を失い、絶望し、まっとうに日々生活していくことをやめてしまい、生活に行き詰まってホームレスに。 餓死寸前のところを友人に救われ、老人エフィングの相手をする仕事に就き、彼がこれまでの人生を語るのをまとめて文章にする。 その老人の死後、彼の息子バーバーにエフィングの人生を記した原稿を渡し、友人のような仲になれたと、マーコは思っていただけだったが、じつは。。 …という、次から次へと話が繋がっていく物語です。 いろんな人の人生の物語が出てきます。 主人公マーコ自身の寂しいこども時代と、伯父が亡くなったショックからのホームレス生活の壮絶な体験。 マーコの伯父の、豊かな才能に恵まれながらも、何にも集中できずとりとめのない空想の連鎖に身をゆだねたるというような性質から、大成できず終わる人生。 老人エフィングの、お金持ちになったり文無しになったり、生死をさまよったり、砂漠の中で絵を描きまくったりの波乱に満ちた生涯。 その息子バーバーの、優れた学者でありながら恐ろしいほどの巨体と突拍子もないファッションのため、無名の大学を渡り歩く人生。 マーコのホームレス体験だけですでに、小説として完結していいような濃密さ。 そこで次にエフィングの、衝撃的な体験が語られ、頭がパンクしそうなところに、さらにその上バーバーが登場し、この3人の人生がクロスオーバーしていきます。 次々に出てくるエピソードは、たんに具体的な出来事を物語っているだけでなく、読む人にもう少し抽象的な観念をイメージさせる効果を持っており、この3人の人生の物語がそれぞれ影響しあって、読み進みながら、さまざまなことを考えさせられます。 たとえば、限界の状態にある人の、思考がまとまらず辻褄の合わないことを取りとめもなく思い浮かべる様子は、私にも身に覚えがあり、あれはたんに個人的な体験ではなかったのだな、起こった具体的な出来事は違っていても、そのとき内面に起こったことは、多くの人と共有できるものだったのだなと、思うことが出来ました。 この小説の中には、いくつも偶然の出来事が出てきますが、それが空々しく感じられないのは、この、人の内面に起こることや心の動きへの洞察が優れているからではないかと思いました。 ここに出てくる具体的な出来事を、実際に作者が経験したわけではないと思いますが、何かの経験から生じる心の動きとしては、ある程度実体験を描いたものなのではないかと思います。 そういうことを、じゅうぶん咀嚼し消化してから書かれているので、普遍性をもって多くの人に読まれるのではないかと思いました。 結局具体的な出来事よりも、そこから感じられるもの、読み取るものに重きを置いて書いているのだと思います。 本文にも、ある本の感想を求められた主人公が、「…あの本で一番よかったのは、バークリーのそういう実体験を、認識というものをめぐる彼の哲学と結びつけて論じているところですね。議論が実に巧みで斬新だし、奥も深い」と述べるところが出てきます。 ここを読んだときに、ああ、そういうものを目指しているのだなと感じました。 ぼんやりした話ですが、私には、お金や財産の人から人へのリレー、自分の出自・ルーツを分からないことによる何かが欠けた人生、そのことによって人生のタイミングをつかみ損ねる不幸の連鎖、また人類全体のルーツへの探訪といったことと、「月」のイメージが重ね合わせられているような気がしました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012.01.21 16:39:32
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