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カテゴリ:読書
「標的」(ディック・フランシス)を読みました。
競売シリーズの29作目です。 今回の主人公ジョンは「サヴァイヴァル専門家」。 妙な職業ですが、要はサバイバイルに関するハウツーものの本を何冊も書いてきた作家で、火の起こし方や森での食料の見つけ方や動物の罠のかけ方などの知識が豊富、という設定。 この主人公を活躍させるために、次々に危険な状況が生じ、ジョンがみんなを危機から救って大活躍。 あなたほどいろんな能力に優れた人をほかに知らない、というようなことまで言われたりして、毎度ながら、主人公が完璧すぎ。 ま、でも主人公に肩入れしていれば間違いないので、安心して読み進められます。 主人公ジョンに比べて、犯人は精神的に弱くてやきもち焼きで、人間的な魅力が少ない人物となっています。 この対比があまりにもあからさまで、ちょっと薄っぺらな感じがします。 また、殺されてしまった被害者の女性の人物像も、いいところなしで、これも小説を薄っぺらなものにしているように感じました。 主人公が作家だから余計にそう感じるのかもしれませんが、主人公と作者をダブらせて読んでしまうところが何度かありました。 たとえば、「私はストア的な生活態度に同感する傾向があって」と書いているところは、これまでこのシリーズを読んできて、主人公がいつも非常にストイックである点が共通しているため、作者自身に通じるところがあるように感じていたので、やっぱりなあと思いました。 また、これまでに読んだこのシリーズのストーリーを思い出させるところも、いくつか出てきました。 ひとつは、12作目の「煙幕」。この中で主人公は砂漠の中にぽつんと車に乗って取り残されてしまい、助けられるまでの数日間を生き抜くため、自分の吐く息で生じる車の中の水滴を、何かのパッケージの小さなビニールに貯めて、これでのどを湿らせてしのぐ、という場面がでてきます。 こういう極限の状況に置かれたときに、身の回りのものでどのように生き抜くかという術をまとめて本にしているのが今回の主人公なのです。 最後の場面では自ら危機的な状況に置かれて、苦難の中「生き残ったらこの体験を本に書こう」と考えるところがあり、作者もこんなことを考えたことがあるのかなあとか、こういう実際的な本を参考にしてストーリーを練ったことがあるのかなあなど、想像しました。 もうひとつ、18作目の「利腕」も思い出しました。 この中で主人公は、コワい人たちに追いかけられて逃げ回り、気球の大会にもぐりこんで、はずみで気球に乗り込んで空高く舞い上がるはめに陥ります。 地図から現在地や高度や方角を読み、風を読んで高度の上げ下げを判断するなど、気球の難しさや魅力がよく分かる場面ですが、同乗者がとんでもなく強気な人物で、危険なコースばかり行こうとするので、危うく障害物に衝突しそうな事態になります。 今回の主人公が、次の作品で書こうとしているのも気球の場面で、目の前に現れた山にぶつからずにどうやって回避させるか、ストーリー展開で悩む場面が出てきます。 なんだか、作者自身が「利腕」の気球の場面を書いていた時にウダウダ考えたことが再現されているかのように思えました。 一番文章がいきいきとしていると感じたのは、今回も馬について描かれているところでした。 ジョンが著名な調教師の伝記を書くことになり、その厩舎で馬を目の前にする場面は、それほど長くはないのに、最後まで印象に残りました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012.01.30 14:41:16
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