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のんびり幸兵衛夢日記

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2012.02.13
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カテゴリ:読書
孤独の発明」(ポール・オースター)を読みました。
「ムーン・パレス」は読みたいと思った翌日に出合い、それを読み終わった次の日に、またこの作者の作品に巡り合いました。
タイトルが目に飛び込んできた瞬間、あっ!と心の中で叫び運命のように感じて手にとりました。
まさにこういう、偶然が重なる状況が、ムーン・パレスに何度も出てきたわけですが、そういったことについてもこの中に書いてあります。

この作品は、それまで翻訳や詩作をおもに行っていた作者が、初めて書いた小説で、「見えない人間の肖像」という自叙伝的な小説と、「記憶の書」という文章の二部構成になっています。

前半の自伝的なものを読むと、作者が実際に経験した事柄をどのように再構成して「ムーン・パレス」という小説を作り上げたのかがよく分かります。

作者の父親はムーン・パレスでは主人公(マーコ)に置き換わっていると言うことができ、そう考えると、作者は、父親の生き方は絶望のなせる技だったのだと捉えているといえるのではないかと思いました。
また、父親の亡くなり方はムーン・パレスでの伯父さん的だともいえるし、作者のいとこ(父親の甥)にとって伯父さんは、まるで本物の父親のような(作者と父親との関係以上に)存在であったので、これもムーン・パレスの伯父さんと主人公との関係にダブります。

私はまだムーン・パレスしか読んでいませんが、きっとほかの小説も読んでからこの作品を読むと、もっといろいろ感じられることがあるのではないかと思いました。
この作者の作品の中でまず最初にこの作品を読んでしまうと、特に後半の文章はわけが分からなくなって降参してしまうかもしれません。

前半の内容は作者自身の経験とそのときに感じたことが、おもに父親との関係を中心に書かれています。
作者にとって父親は、すぐそこにいても存在しないかのような、つかみどころのない人物で、そのことが作者を幼い頃から奇妙な気持ちにさせ、苦しめてきました。
なぜ父親はこんななのかという疑問の答えとして、作者は父親の父親(作者の祖父)の存在に行き当たります。
父親は幼い頃に衝撃的な出来事によってその父親を失っており、そのような経験をしているのだからあのようになっても何も不思議なことはないと、父親の過去の経験に原因を見出しています。

しかし、読み手としては、それだけではないような気がします。
断片的に語られているだけですが、この父親は少し自閉症的な性質があるように思います。
遊び人風にはしゃいでみたり、ここにいるのに周りの人たちと見えない壁で隔たれているように見えたり、人の感情を推し量ることができなかったり。
でも作者はそういう見方をせずに(こういった様子を文章にしているからには、実際には分かっているのかもしれないけど)、あくまで父親の生育歴に原因を見つけ出すというところは、この作者の性質をよくあらわしているように思いました。

文学的というか、情緒的というか、父親とはまるで正反対の性質を持っていて、だからこそ子供の頃、このような父親を理解できず傷ついたのだろうと思います。

後半の文章は難解で、よく言えば詩的、悪く言えば単なる言葉の羅列、散文的。
小説を作り上げる過程のメモ、創作ノート的な、さまざまな思考がぎゅっと凝縮されたようなものです。

この中で、「現実はひとつの入れ子である。入れ物の中に入れ物があり、そのまたなかに入れ物が、と無限に続くチャイニーズ・ボックスである。」という文章が印象に残りました。
次々に起こる出来事の、その一つ一つに何の関連性も見出さなければ、それらはバラバラでそこから何も感じることはありませんが、作者にはそれらの出来事に繋がりや偶然性を感じられ、このような表現がされています。

小説の中で偶然の出来事があると、人はそこから意味を見出そうとするし、単純に「1919年」と書くだけでも読者はそこから何か意味を見出そうとする、と書く一方で、ピノキオの原作とディズニーを比較して、原作ではすべてを語らず示唆するところをうっすらとほのめかすところでとどめているからこそ味わいがあるのに、ディズニーはあからさま過ぎると言っているのも、面白いと思いました。
子供がスーパーマンに夢中になる様子の観察から、ヒーローを求める心について考察するところも面白かったです。

とにかく、この人はひとつのことをじっくり考えすぎるっ。
うしろで、吉本ばななが、この作者だからこのような父親像になったのであって、もしかしたら普通の人だということもありえるというようなことを書いていましたが、まあやっぱり父親という人は変わった人だったんだろうとは思うけれども、この作者自身もなかなかのクセモノだなという気はしました。





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最終更新日  2012.02.13 18:27:57
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