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カテゴリ:読書
「大地」(パール・バック)を読みました。
1年ほど前にユン・チアンの「ワイルド・スワン」を読んだ時、うしろの解説でこの作品に触れられていました。 さらに、叔母と本のことをあれこれ話していて、「大地も読んだで!」と、これだけ言えば内容も分かってくれるでしょという感じで言われたので、ますます読みたくなっていました。 古本屋で物色するたびに、この本を探していて、第2巻~4巻は揃ったものの、どうしても1巻だけはみつからなかったので、仕方なくネットで、ポイントで買って読むことにしました。私ってホント渋ちん。 貧しい農民の王龍は、凶作など困難にあいながらも地道に働き、土地をどんどん手に入れて大富豪になっていく。 しかしその3人の息子は、もう農民として土地を耕すことはしなくなり、長男の王大は地主として贅沢の限りを尽くし、次男の王二は商人となって常に金勘定に忙しく、そして三男の王三は王虎将軍として恐れられる軍人となって、別々の道を進み、王龍の土地は再びバラバラになる。 王虎の二人の妻は、王淵という男の子と愛蘭という女の子を産む。 王虎は息子・王淵に将軍の跡を継がせようと軍事の教育をするが、息子は暴力や旧来の慣習を嫌い、土地や自然を愛する性質を持つようになる。。 そして王淵を中心に据えながら、中国の急激な変化とそれを民衆がどのように捉えるかといった世の中の空気や人々の心などが描かれています。 こんなすごい小説が、この時代に(1930年頃)、アメリカ人によって書かれたというのが驚きです。 うしろの解説によると、父親が宣教師であったため生まれてまもなく中国に渡ったという人だそうですが、たんに中国語が堪能だとか中国の事情に詳しいというだけでなく、中国の人の気質を深く理解しているところがすごいと思いました。 この小説を発表したのは38歳のときだそうですが、実際に接した同時代の人々だけでなく、その先代、先々代の人たちの考え方や、小作人といった搾取される側と地主の搾取する側のそれぞれの考え方、昔の慣習のまま生きる農村の人々と都会で西洋の様式を片っ端から取り入れて生活する人たちの考え方や価値観の違いなどが、詳細に描かれています。 いかに作者の家族が中国の各地でさまざまな人々の中に入り込んでいったかが感じられると同時に、この作者の豊かな想像力に驚嘆しました。 時代は確かに「ワイルド・スワン」と重なるのですが、国民党と共産党とか蒋介石とか厳しい思想統制といった政治的なことは、具体的には描かれていません。 そういう意味では、本当に同じ国の同じ時代のことなのかと疑問に感じることもありましたが、結局どちらも真実を捉えているということなのではないかと思いました。 この「大地」はそのような政治色が薄められているため、どの時代のどの国の人が読んでも共感できるような、より根源的なものが描かれているように思います。 といっても、ピューリッツァー賞とノーベル文学賞を受賞したという能書きから想像するような、高尚な近寄りがたさもありません。 王龍を中心に描かれている第一部では、何もない極限の貧しさに生きる人の必死さが伝わってきてこの部分だけで完成されているように思えます。 それが第二部の王虎が活躍する部分では、まるで冒険小説を読んでいるかのような迫力だし、第三部では王淵のほのぼのした恋愛があって、単純に娯楽小説としてめっちゃ面白い。それでいて、教訓に満ちているようにも思えて、読み応えたっぷり。堪能しました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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