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カテゴリ:読書
「審判」(フランツ・カフカ)を読みました。
Kは何も覚えがないのに、ある朝突然逮捕されてしまう。逮捕されても拘束はされず、銀行の仕事もでき、自由の身だという。 裁判所に出向いたり、叔父の助力で弁護士に会ったり、あれこれ手を尽くすが、結局最後には殺されてしまう。という話。 この作品は生前は発表されず、遺稿はすべて焼却してくれるよう遺言されたものを、友人の手により発表されたというもの。 そのため、各章の順番には諸説あり、書きかけのままの章もあって、不完全。 読み始めてすぐ、なんだか夢の中の話みたいだと思いました。 私はよく、梅田のような大きな地下街をさまよい歩いている夢を見るのですが、店の中に入ったらその奥に滑り台があって、そこを滑りだすと日がさんさんと差す外に出て、地下のはずなのになぜかはるか上のほうから地面に滑り降りていくことになります。 で、また地下街に戻ろうとエスカレーターに乗って、延々と下に降りていくと、さっきのお店のある場所に行き着くのです。 目が覚めてから思い返せば、どうにも理屈に合わない構造ですが、夢の中では何も不思議に思いません。 この話の中でも、ボロアパートの屋根裏に裁判所があったり、銀行の中にある物置を開けるとそこに自分が逮捕された時の監視人2人と役人がギュッと窮屈な形で入っていて、銀行の中でその2人が役人に笞打ちの刑にされたりします。 読んでいる方は、どないなっとんねんと思いますが、Kはそのような成り行きを当然のこととして受け入れています。 話全体が、夢と現の境をさまよっているように進行するのです。 うしろの解説によると、作者が、夜中に理由もなく父親にベッドから廊下に担ぎ出されるかもしれないという妄想に怯えていた、と幼少期を振り返って書いていることや、結核を患っていたことなどを考えると、作者のそれまでの体験や日常が反映されたものといえるのかもしれません。 しかし、さらに解説によると、これが書かれた当時は旧オーストリア・ハンガリー領での腐敗しきった政治が世の中を重苦しくしていて、ドイツ系ユダヤ人という難しい立場にあったということなので、そういう社会に生きる人の不安や理不尽さなどを、抽象化して描くことで間接的に社会を風刺しているともいえるかもしれません。 また、この作品の中ではやたらと女性が出てきて、Kはその力に頼るのですが、作者はこの作品を書き始める2週間前に婚約を解消していて、そのことが影響を与えているのかもしれないとも思いました。 そう考えると、この作品は、理不尽に逮捕されて殺されるという話だけれども、これは人の一生、人生というものを描いているのだとも取れるかもしれません。 「掟の門番」という短いエピソードが出てくるのですが、このエピソードは、Kの逮捕と死とダブるのです。 作者はこの「掟の門番」をほかの作品にも書いており、「審判」のほかに、朝起きたら巨大な虫になっていた、という「変身」という作品も書いているそうで、同じような話を、例えを変えて繰り返し繰り返し描いていたようです。 これらの話で言いたかったのは、自分自身の中の不安や妄想といった世界なのかもしれないし、当時の世の中に対する見方かもしれないし、どの世の中にも通じる人生というものに対する考え方だったのかもしれない…。 などと、読みながらいろいろと考えが広がる、不思議で奥深い作品でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012.05.09 17:55:05
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