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カテゴリ:読書
「エージェント6」(トム・ロブ・スミス)を読みました。
チャイルド44、グラーグ57に続く完結編です。 もうすでに、グラーグ57であれだけ破壊的なシーンを描きつくした後で、いったいどんな話を展開させるというのか。もうあれでやめといた方がいいんではないか。駄作なんじゃないかという不安を抱きながら読み始めました。 今回は、物語の舞台がソ連にとどまらず、アフガニスタンやアメリカへと広がります。 アフガンでのソ連の行為とか、中東でのソ連とアメリカの力学とか、イスラム圏での価値観など、私には知識不足の事柄がたくさん出てきて、読むのがちょっとしんどかったです。 資料の収集などに何人かの助力があったとはいえ、これだけ多岐に渡る事柄を咀嚼して、ひとつの娯楽小説として話をうまくまとめ上げるのは、ものすごく大変なことだろうと思いました。 新聞やテレビを見ていると、日本人の私にとっては、何でこの話題で?というようなことで、アメリカ人が共産主義とかソ連など昔の東の体制のことを持ち出すたびに、違和感を覚えていました。 医療保険改革の話でさえ、そんな調子。 その部分は個人の儲けや利益にしてしまうところではなくて、みんなの共有の財産なのでは、とか、基本的人権とか個人の尊厳にかかわる部分を一部の人間が搾取しているのではと、最近は日本社会に対しても思うことがありますが、アメリカでは共産主義に対して異常に過敏に反応するように思います。 私は左よりなんかな? そんなアメリカに、これまでソ連国内しか知らなかった登場人物たちをやって来させて、物語として大丈夫なんだろうか? 結局、西側からの価値観で描かれた物語ということになってしまって、安っぽい話になってしまうんじゃないだろうか?と、読みながら心配しましたが、それは杞憂でした。 ソ連の、個人を犠牲にする全体主義を描いて批判するのと同じように、アメリカの、反共に固執した滑稽なプロパガンダや、人種差別などを取り上げています。 どちらかの考え方だけが正しいってことじゃないんじゃない? どの国に生まれても、人が本能として根源的に求める権利や幸せに感じることって、同じなんじゃない? というバランスの取れたものの見方が、描かれているように思いました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012.05.17 18:06:23
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