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カテゴリ:読書
「寒い国から帰ってきたスパイ」(ジョン・ル・カレ)を読みました。
以前読んだ「ナイロビの蜂」がとても面白かったので、この人のほかの本も読んでみたいと思っていました。 少し前に古本で「影の巡礼者」というのを見つけて買ったのですが、これがスマイリーという人物が活躍するシリーズだったので、シリーズのはじめの方から読んだ方がいいだろうと、これから読むことに。 が、読んでみると、この作品ではスマイリーは時々チラッと気配を感じさせるだけでした。 この作品の主人公はイギリスのスパイであるリーマス。 60年代、ドイツをベルリンの壁が東西で二分する時代。 冒頭では、壁の東から西に逃れようとする味方のスパイを、壁の西側から見守っていたリーマス自身が、最後のシーンでは壁をよじ登り東から西へ辿り着こうとします。 西も東もすべてにおいて互いに徹底的に敵視していて、瑣末な情報を得るために危険を冒し大きな犠牲を払って、憎しみと報復が繰り返されるゲームの世界。 リーマスは諜報活動のために、酒におぼれ職をなくし文無しになりトラブルを起こすなど徹底的に身を落とし、人物を偽る下準備をします。 スパイはプライバシーも何もなく、すべてをかけてやっているが、国家から見れば所詮、駒のひとつ。 その、徹底的に非情なスパイの世界と、その優秀なプロであるリーマスの中にある、人間的な部分との対比が、何とも言えずいいと思いました。 これが書かれた時代と今とでは、世界の情勢が大きく変わりましたが、描かれているものはまったく色あせて感じられません。 中ほどの、リーマスを尋問する東ドイツの人の言葉が特に印象に残りました。 「…あるローマ人の言葉に、ひとりの男を多数の利益のために死なすのは、適宜の処理というべきだ、とある」 この小説は、スリリングなスパイの世界をわくわくして読む娯楽小説ですが、同時に全体主義への批判が描かれていると思いました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012.05.31 18:48:20
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