|
カテゴリ:読書
編物は時間を編むものだなあと思う今日この頃。
細い糸を引き揃えて使うために、コーンに巻き巻き巻き巻きしなければならないのですがこれがめっちゃ退屈で眠い。 ので、机の上に本を広げて読書しながら、毛糸を巻いています。 「騎乗」(ディック・フランシス)を読みました。 競馬シリーズの36作目。 今回の主人公ベンは、17歳。これまでさまざまな職業の人物が描かれてきましたが、まだ何者にもなっていない少年は初めて。 フランシスの描く主人公はいつも、非常に頭がよく抑制が効いていて、常に何をなすべきかどう行動するべきかを心得ている、非の打ちどころのない人物。 でも今回はなんてったってまだこどもだから、違った人物像なんだろうな、この作者がダメな人を描くとどんな感じなんだろうと、期待して読み始めましたが、やはりそこはフランシス、周囲の大人が「あなたいくつだっけ」と何度も聞き直すような、行く末が空恐ろしいような優秀な人物になってしまっています。 ありえなーい、かわいげがなーい。 けど、なぜか読んでいて腹が立ったりばかばかしくなったりは、しな~い。 むしろ、ベンの観察の鋭さや明晰な分析が発揮されるのを読むのが楽しい気持ちになります。 いつも優秀な主人公ばかりで面白みに欠ける、などと思いながらも、やっぱりこういう人物の活躍を読者である自分も望んでいるし、そういう価値観を多くの人と共有しているんだなあと思いました。 若い頃から政治家を志していた、ベンの父親ジョージが満を持して下院議員選に立つことになり、やがて政治家として出世街道をかけあがります。 地元で選挙活動するとは具体的にどんなことをするのか、ライバルとの生々しい諸々の闘い、振る舞いなどが、詳細に生き生きと描かれているところが、特に面白かったです。 その部分は、地の文章も皮肉とユーモアにあふれていて、ほかの部分より作者自身も面白がってノリノリで書いている気がしました。 ちょっとジェフリー・アーチャーを思い出すところもありましたが、あれほど政治とは何でもありの汚い世界だという描き方でもなく、健全な精神の人が世の中の汚いものの犠牲にならないための処世術、とでもいうようなものが描かれているように思いました。 詳しくは書けないけど、ベンとジョージの父子関係の描き方もよかったです。父親と離れて育ったため、初めはぎこちない関係だったのが、次第に打ち解けていく様子を読むと、さまざまな事情があっても常に真摯に向き合っていればいい親子関係がつくれるものなのだという希望を感じました。 さらに、よかったと思ったのは、女性の描き方です。 先日本屋で米原万理の講演の内容をまとめた本を読んでいたら、「名作といわれる19世紀の文学作品を読んでいると、女性は男性のことを仕事ぶりとか本質的なもので選ぶのに、男性が選ぶのは若くてきれいな女性ばかりで、読んでいて腹立たしくなる」と言っていました。 みんな長生きする世の中だのに、今もそういう価値観がはびこっていると思います。 が、この小説でベンの父親ジョージが選ぶ、親愛なるポリィはおしゃれのセンスのかけらもない野暮ったいおばさん。 でも、間違いなく善良な精神が外見ににじみでていて、そのポリィへのベンのまなざしが、とても好ましく感じられました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012.06.05 12:24:41
コメント(0) | コメントを書く |