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カテゴリ:読書
「北の海 」(井上靖)を読みました。
「しろばんば」「夏草冬濤」に続く三部作の最終編です。 ひとことで言えば、「洪作の青春」といったところ。 洪作はずっと家族と離れて暮らしているため、帰属意識がなくフラフラとして、まったくあわてたりあせったりすることがなくのんびりしていて、まるでゴクラクトンボだとみんなから言われます。 モノに対する執着がまるでなく、いつもボロを着て、足りないものがあると友人から借り受けたり譲ってもらったりして済ませてしまったり。 苦労をしてもそのつらさをいつまでも思うことがなく、すぐに忘れてしまって、いつものんきな顔をしていたり。 人から唆されればすぐその気になり、ついには金沢の高校の柔道部員に勧誘されて、まだ入学試験に受かってもいないのに(浪人生の身でありながら)金沢へ行き(荷物も持たず手ぶらで)、夏休みのあいだ中柔道をして過ごす始末。 台北の両親の元に行くことになっており、沼津の中学時代の教師や同級生、祖父母に、何度も送別会を開いてもらっているのに、いつまでもブラブラしているばかりで周りを呆れさせたり心配させたり。 もう、洪作ってやつはっ! そう思うのだけど、でもなんか憎めんなあ~。 親にいわれたことだけを堅実にやって小さくまとまってしまうのでなく、自由な心で、何かに魅力を感じたらあれこれ感じずポンと行動を起こしてしまうところに、読んでいて「なんでやねん」と呆れたりハラハラすると同時に、惹かれるものも感じてしまいます。 洪作の中学時代の教師も、心配して怒りながらも、いや大したものだ、あっぱれだなどと言ったりします。 学校の先生だけでなく、下宿している寺の娘も、トンカツ屋のお内儀さんも、すき焼き屋の女中も、柔道部の部員も、柔道部員の下宿している家のおばさんもおばあさんも、みんな洪作にとてもおせっかいで、おそろしく親切なことをしてくれます。 いい時代だなあ、と思いました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012.09.08 23:29:55
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