行ってみてわかること。
歴史が好きなので、旅行はほとんど、古都と名づくところです。奈良県の明日香村には本当によく旅しました。甘橿の丘という丘があるのですが、昔はここに蘇我氏の邸宅があったそうです。ここからは飛鳥の都が全て見渡せます。当然、天皇の館も。天皇家を見下ろす位置に邸宅を構えられたのです。当時の蘇我氏の権勢がわかる気がします。また、その後に起こる大化の改新までの、天皇家のじくじたる思いまで伝わってきます。学生のころは鎌倉によくいく機会があり、本当に楽しませてもらいました。切り通しという名前の入り口がいくつかあるのですが、ここを通らないと鎌倉には入れません。そのため、敵が出現したとき、この切り通しを守れば、鎌倉には入れなくなるというわけです。あとは海から侵入するしかないのです。よく、鎌倉は天然の要塞といわれますが、行ってみると、なるほどと感心させられます。この町を歩くだけで、武士の都の緊張感が伝わってきたものです。関西に旅行すると、たいがい奈良に行くのですが、機会があって、京都の町を一日だけ歩いたことがあります。そのとき、非常に驚いたことがあります。坂本龍馬が泊まっていた、酢屋という材木屋さんと、土佐藩邸は目と鼻の先なのです。龍馬は土佐藩を脱藩していて、捕まれば命はありません。今までは龍馬が早世したことが残念でした。けれども、京都に行ってからは、よくまぁ、33才まで無事でいたものだと感心するようにもなったのです。「新選組!」の脚本を書いている三谷幸喜さんが,似たようなことを書いています。とてもせまい空間に「坂本龍馬」「桂小五郎」「新選組」がいるなんて、まるでテーマパークと感じたそうです。ディズニーランドを歩いていれば、ミッキーに会えるように、簡単に坂本龍馬や桂小五郎に会えそうだと書いてあります。うまい表現だなあと思いました。まさしく、そんな感じなんです。最も、私はまるで将棋板のようだと思いましたが。小さな四角い町の中を「坂本龍馬」「桂小五郎」「新撰組」と書いてあるコマが動いている想像をしていました。あれだけ大きな歴史の転換を、これだけ小さな空間で行ったんだと思うと、行ってみてわかることってあるんだなとつくづく思いました。勉強の仕方はいろいろあります。歴史は本を読むだけでも楽しいですが、実際に、現場に行くと、生の面白さを実感できます。歴史上の人物たちと同じ空気を吸うとまた違った味わいがあるのです。 『大河な日日 三谷幸喜のありふれた生活3』