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先日、医学書院で打ち合わせをした。写真はそのときのもの。新しくなったビルだけあって、新築の匂いがした。そして立派だった。 そのときいただいた本が『「治らない」時代の医療者心得帳」』。 春日武彦氏の本だ。週間医学界新聞で連載したのをベースにしたもの。 帯には、「きみに「中腰力」があるか」とある。それに続いて、 「棚上げする度胸。 矛盾に耐える知的肺活量。 保留を重ねるツラの皮。 タフな医療者は中腰だぜ!」 とある。 すごいキャッチーなコピーだ。素晴らしい。 僕は、この意味での中腰力ならそこそこ自信がある(空気椅子は辛くて嫌だったが)。 棚上げする度胸。 >度胸というか棚上げが基本。 矛盾に耐える知的肺活量。 >矛盾は知的解明力により矛盾ではないもに解消してしまう。ただしときにジレンマには苦しむが、寝てなきものにする。 保留を重ねるツラの皮。 >締め切りを延期続けるツラの皮なら自信あり(とはいえ、“絶対締め切り”を破るほどツラの皮は厚くないが)。 タフな医療者は中腰だぜ! >タフな研究者は中腰だぜ! この本、かなりおもしろい。こういう本当のこと(まっとうなこと)を書いている本は、なかなかない。ほとんどは、綺麗事か、できもしない(ということは無意味な)正論か、どこにでも書いてある戯れ言だからだ。 僕の週間医学界新聞での連載も、本当のまっとうなことでありながら、これまで人が明言してこなかったことをわかりやすく書いていきたいと思っている(いずれ本になるのも愉しみ)。 僕は医療者じゃないが、共感できる箇所はかなりあった。ありすぎてピックアップできないのだが、以下の箇所は、こんな本当のことを本物の医者が書いているということに感銘を受けた。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「医師に必要なものとして、誠実さとか優しさとか、人間愛とか自己犠牲だとか、的確な判断力だとか冷徹な技術だとか、鬼手仏心だとかいろいろなことが言われます。しかしわたしが思いますに、医師として何よりも大事なのは運の強さです。 強運――これに勝るものはありません。自分を守り相手をも守る強烈な運の強さ。必要なのはこれです。これさえあれば、死にかけの患者へ下手な処置をしても助かります。逆に運が悪い医者は、どれほど善人かつ技術に優れていても、「治療は見事だったが、患者は死んだ」といった結果になります。ひどい話です。」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 特にこのフレーズ。 「しかしわたしが思いますに、○○として何よりも大事なのは運の強さです。強運――これに勝るものはありません。 」 これは「研究者」でも、「執筆者」でも、いや「人間」ですら、同じことが当てはまるように思う。身も蓋もない話ですが、本当のことだと僕は思う。 敬意を込めて、この本は、以下のような副題でも良かったかもしれないというほどです。 『「治らない」時代の医療者心得帳――カスガ先生の身も蓋もない悩み相談室』 身も蓋もないということは、本質的だということに他なりません。医療従事者ならずとも、役立つこと請け合いです。 関心のある方は是非読んでみてください。 おまけ その本に収録されている「対談 内田樹×春日武彦 中腰で待つ援助論 ――時が流れ出し,ケアがはじまる」 http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2004dir/n2613dir/n2613_01.htm お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007/09/30 02:31:31 PM
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