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西條剛央のブログ:構造構成主義

西條剛央のブログ:構造構成主義

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西條剛央

西條剛央

2009/10/12
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昨日の学会はとても実りあるものでした(それについては追って書いてみたいと思います)。休み時間には医学書院の書籍販売のところでサイン会?をすることになり,何十人もきてくれたので嬉しかったです。この本を上梓するまでには,わかりやすい図の作成や書き下ろした章もあり,なかなか大変な道のりでしたががんばって書いて良かった。


以下に拙著『看護研究で迷わないための超入門講座――研究以前のモンダイ』の「はじめに」「もくじ」を掲載しておきますので,ブログやMLへの転載などにご自由にご活用いただければと思います。


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≪JJNスペシャル≫
研究以前のモンダイ
看護研究で迷わないための超入門講座

著:西條 剛央
判型 AB
頁 160
発行 2009年10月
定価 2,310円 (本体2,200円+税5%)
ISBN978-4-260-00995-9

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はじめに

研究以前のモンダイとは何か?
 皆さんは次のような経験をしたことはありませんか?

・伝統的な数量的アプローチから質的アプローチまで多くの研究手法があるが,どれを選び,使うべきかわからない.

・次々と新しい理論が輸入されてきているが,どの理論が正しいのか判断がつかない.

・質的方法は科学的ではないと批判されたため,様々な関連書を読んだが,質的研究は科学ではなくアートだと主張していたり,あるいは単に質的研究は量的研究とは異なるといっているだけであり,問題は解決できなかった.

・事例研究を行ったが,事例研究によって得られた知見は他に一般化することはできないと批判されて困ってしまった.

・複数の方法論を組み合わせるトライアンギュレーション(ミックスメソッド)を勧められたが,他方で異なる認識論に基づく方法は併用するのは矛盾だという指摘もあり,どうしたらよいかわからなくなった.

・上記のような批判に応えるためには,方法論の前提となっている哲学から理解しなければならないといわれたが,入門書や解説書を読んでも結局のところ解決することはできなかった.

・研究デザインに整合性がないといわれるが,どうしたら整合性のある研究になるのかわからない.

・がんばって発表したが,的外れな批判ばかり受けてやる気をなくしてしまった.

 看護現場で起きている現象を真摯に追求しようとする人ほど,程度の差こそあれ似たような経験をした人は多いのではないでしょうか.本書で「研究以前のモンダイ」と呼んでいるのは,こうした “迷い”や“悩み”として顕在化する,しなやかな研究実践を妨げる根本問題のことなのです.

 本書は,この「研究以前のモンダイ」に焦点化し,解き明かしていくことで,研究者が必要以上に悩むことなく,着実に研究を進めていくための入門講座となっています.



看護研究特有の難しさ

 研究以前のモンダイには,看護研究特有の難しさが関係しています.

 看護研究が扱う対象は,臨床疫学的な事象から,ストーマや褥瘡のケアといった身体・物理的事象,ターミナルケアにおける患者さんの心のケアといった心理的事象まで多岐に渡っています.また,時々刻々と変化するのが現場であり,研究室の中のように一定の条件が保たれる,ということはほとんどありません.また看護の現場は,患者,医師,薬剤師,作業療法士,理学療法士といった背景や立場の違うさまざまな人が交流しており,研究を行う際にも多かれ少なかれそうした他職種のるつぼの中で評価を受けることになります.

 「科学とは何か」という問い1つとっても,これまで明快な答えは得られていません.医療界でいえば,EBMやEBNに代表される統計的・数量的研究において掲げられている科学性と,質的研究などが掲げている科学性は異質なものです.しかし異質さとその理由が十分に了解されておらず,また量的・質的を超えて科学という営みを説明する「原理」(→p.13)がないことから,質的研究を信奉する人と量的研究を信奉する人との間で対立関係が生じる,ということもしばしば見られます.

 このように考えただけでも,たとえば物理的現象だけを扱う物理学などと比べて,いかに複雑なものかがわかるでしょう.



研究以前のモンダイを解消するツール

 こうした看護研究特有の難しさに起因する研究以前のモンダイを解消していくには,従来の考え方だけではとても困難です.そこで本書では,よりしなやかで建設的に研究を行うための「方法」をわかりやすく解説していきたいと思います.

 その方法を総称してSCRM〈スクラム〉(Structural-construction research method,構造構成的研究法)と呼びます.内容は本論でゆっくりお話ししていきますが,前置きに少しだけ紹介すると,まずSCRMとは「構造構成主義」という考え方を基盤にした,専攻や領域を問わず活用できる研究法のことです.構造構成主義というとそれだけで難解な印象を持つかもしれませんが,あらゆる場面で「こうした方がいいのではないか」と考えていく際のベースとなる考え方と思っていてください(註1).全体を理解するには拙著『構造構成主義とは何か』(北大路書房)を読んでいただくとして,本書では読み進めていくのに必要な場合に,そのつど解説を入れていきたいと思います.


本書の構成

 本書では「研究以前のモンダイ」を解消すべくSCRMのエッセンスを各講でわかりやすく解説しました.適宜図解を挿入するなど各所に工夫を凝らしましたので,現場の看護師や医療関係者はもちろん,研究になじみのない初学者の方でも十分に活用していただける内容になったと考えています.

 lecture1からlecture14までは,研究以前のモンダイを解決するために,方法とは何か,理論とは何か,科学とは何か,認識論とは何か,一般化とは何か,といった問題群に対する原理的な考え方を解説していきます.そうした問いは哲学的な響きがするかもしれませんが,多くの難解な哲学的用語を使って惑わすつもりはまったくありません.むしろ,今まで見過されてきたこれらの問題をきちんと(根本から)考えることは,実は看護研究が持つ難しさを緩和し,よりしなやかな研究実践につながるものなのです.

 lecture15からlecture21までは,それを踏まえて,研究デザインの極意,論文執筆のエッセンス,事例研究をまとめるコツ,研究発表に役立つ視点,コトバの呪縛を解くための思考法,そしてSCRMの活用法といったように具体的な研究実践に役立つ枠組みを提示していきます.

 各lectureで提示される考え方と手法は,テーマや対象,専門を選ばずに有効に機能するツールとして役立ていただけると思います.本書では看護をメインフィールドとして論じていますが,ここで扱う「研究以前のモンダイ」は,医学,作業療法,理学療法,心理療法,介護,ソーシャルワーク,他職種間連携といった諸領域をはじめとする多様な領域の研究者にとって共通する問題でもありますので,どこの領域でも活用することができるでしょう.

 また「研究以前のモンダイ」とは「入門書以前のモンダイ」を扱うことに他ならず,その意味では,通常の入門書を超えた「超入門講義」になっているともいえます.その意味では,すでに多くの研究を行ってきた専門家や教授職の皆さんにとっても新鮮な内容になっていると思います.



本書の読み方

 本書は,前半から後半へと進むことで自然に重要な「原理」を学習していけるよう構成されています.したがってまずは最初から読み進めるのがスタンダードな読み方としてお勧めできます.もちろん気軽にパラパラとめくって,目に留まったところから読むのも個人的には好きな読み方ですが,その場合もできれば目次を参考に「方法」「理論」「認識論」といった項目のまとまりごとに読んでいただいた方がより効果的に学習できると思います.

 最大限に活用していただくためのコツを挙げるならば,それは本書に書かれていることを盲目的に信じることなく,「本当かな」と批判的に吟味しつつ読む,ということです.

 学生や同僚と読書会を開いて,しなやかな研究実践を実現するという目的に照らしながら,「本当にこう考えるしかないかな,他にもっと有効な(機能的な)考えはないかな」と検証しながら読んでいくのもよいかもしれません.

 そのうえで「確かにこのことについてはそのように考えざるを得ないな」と納得した部分があったなら,あなたにとって相当「使えるツール」になることでしょう.そうしたプロセスを経て,研究という営みを深く理解しなおすことができたならば,あなたの研究実践はより深く,力強いものになると確信しています.

 それでは本論でお会いしましょう.


註1:なお,日本語で「主義」と聞くと,「~こそが絶対に正しい」「~以外は認めない」といった排他的な印象を持つ人も少なくないと思います.その意味では「構造構成主義」は「正しさ」を基点とする考え方ではまったくないため,「主義であって主義にあらず」ということもできます.もっとも通常「資本主義」(capitalism)のもとで生きているのを意識していないように,なじんでしまえば呼称はたいした問題ではないと思いますが,どうしても「主義」に抵抗がある方は「構造構成学」と読み替えてもかまいません.


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Last updated  2009/10/12 02:51:02 PM
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