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西條剛央のブログ:構造構成主義

西條剛央のブログ:構造構成主義

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西條剛央

西條剛央

2009/10/20
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カテゴリ:構造構成主義
○科学基礎論学会2009年秋の研究例会において、
ワークショップ「心理学・人間科学メタ理論の新展開」
を開催します。

【日 時】2009年11月7日(土)16:00-18:30頃まで
【会 場】慶應義塾大学三田キャンパス 
     B会場 研究棟1階 A会議室 16:00-18:00ワークショップ
【参加費】無料
【オーガナイザー】渡辺恒夫
【提題者】
伊藤直樹(法政大学)「心理学が喪ったもの:メタ理論としてのディルタイ心理学」
鈴木聡志(東京農大)「メタ理論とディスコース分析」
渡辺恒夫(東邦大学)「心理学的多元論のメタサイエンス」
西條剛央(早稲田大学)「人間諸科学の超メタ理論としての構造構成主義」

・科学基礎論学会秋の研究例会 詳細は以下をご参照ください。
http://phsc.jp/dat/prg/2009a.pdf
・キャンパスマップ
   http://www.keio.ac.jp/ja/access/mita.html
・各提題要旨は、科学基礎論学会ホームページhttp://phsc.jp/に10月下旬ごろ 順次掲載予定。
                    

<オーガナイザーによる主旨>

今年(2009)の夏、アメリカ心理学会(APA)において”Theorizing pluralism” というシンポジウムが行われ、私も”Metascientific foundations for pluralism in psychology”という題で話題提供を行った。1960年代以降、次々と新心理学が登場し、多様化断片化の一途を辿っているという心理学の現状を踏まえ、近年APAではunity-disunity debate、すなわち、単一パラダイムによる統一か複数パラダイムによる多元主義か、という論争が続いている。その歴史的根源の一つが、19世紀末の、ディルタイ、ブレンターノらによる、自然科学とは異なる方法(解釈学・現象学)による心理学の構想にあることは言うまでもない。

私の年来の主張は、存在論的―認識論的―方法論的―科学心理学的という4水準からなるメタサイエンスによって、多元主義をメタ理論的に基礎付けんとするところにある。詳しくは、渡辺の提題(心理学的多元論のメタサイエンス)を参照して欲しいが、そこでなされている心理学の諸潮流のメタサイエンスによる分類・考察には、歴史的具体的な軸が欠けている憾みがあった。

その点、伊藤は、人間科学(Geisteswissenshaft)を構想したディルタイのメタ理論が、なぜ20世紀心理学の歴史的展開から拒まれていったかを、創成期の実験心理学者エビングハウスとの論争の検討を通して、思想史の立場から解明しつつある。

自然科学ではない方法による人間科学の流れは、社会学や人類学でまず復興し、1980年代に心理学にも波及し、日本でも近年の質的心理学研究の興隆を見るに至っているが、その中心となるメタ理論は社会的構成主義にある。具体的にディスコース分析として自前の研究を進めている鈴木によって、その紹介・検討がなされるだろう。

渡辺の提題では、心理学の諸潮流の暗黙のメタ理論を、メタサイエンスの観点から解明するが、その結論は、「人間一般、心一般などというものは存在せず、心は多型存在であるが故に、心理学も多型となる」、ということになる。

心理学・人間科学メタ理論の新展開は、西条にも見られる。認識論や現象学ではフッサールと竹田青嗣,存在論ではロムバッハ,記号学ではソシュールと丸山圭三郎,構造論と科学論は池田清彦といったように,現象学,存在論,認識論,記号学,構造論,科学論,といったそれぞれの領域の諸成果を人間科学のメタ理論として有機的に統一した「構造構成主義」を創唱しているので、その立場からのメタ理論へのアプローチを期待したい。

科学基礎論学会においては、英米分析哲学系のメタ理論が従来まで中心であったが、以上みるように、人間科学メタ理論の潮流は、現在では大陸系の現象学・解釈学の流れが英米へも流入し、後期ヴィトゲンシュタインやライルの流れとも交差・交流しつつ、新展開をとげつつある。本ワークショップは、このような新展開への、当学会初の本格的なアプローチとなる筈である。

(オーガナイザー:渡辺恒夫)



以下僕の抄録を載せておきます。
ーーー

人間諸科学の超メタ理論としての構造構成主義(構造構成学)

西條 剛央(Takeo SAIJO)
早稲田大学大学院商学研究科専門職学位課程


1. 従来のメタ理論的基礎づけの意義と限界 メタサイエンスといったメタレベルの研究は,研究者や科学的知見を用いるユーザーに直接的にであれ間接的にであれ貢献する点に,その存在意義があるといえよう。その観点からするとWatanabe(2009)の試みは,心理学に流通している枠組みを分類,整理,相対化するための視点として一定以上の意義があると考えられる。ただしこれは哲学的(原理的)基礎づけというよりは,心理学についての科学的構造化に近い。

したがって,研究者を悩ませている共約不可能性といった認識論上の難問を根本から解消したり,認識論間トライアンギュレーション研究を基礎づけたり,「様々な科学に通底する営みとは何か,科学性の条件とは何か」といったことについて原理的な回答を与えるものではない。たとえば,「データの公共性」は科学性の必要条件でしかないため,公共性のあるデータを用いたというだけでは,科学ということにはならないだろう。


また,渡辺のそうした主張を基礎づける認識論的基盤が何なのかは明らかにされていないという点にも留意したい。「あらゆる認識論を相対的に捉える」というのも一つの立場に他ならないため,それを無色透明な特権的地位に位置づけないためにも自らの認識論的立場は明示化しておくべきであろう。

ただしそれは単に可視化したり,宣言したりすればよいというものでもない。認識論を相対的に捉える立場は,単なる立場ではなく,あらゆる立場の違いを超えうる“超越論的地平”としての条件を備えていなければならないのだ。言い換えれば,そのように通常の認識論(メタ理論)を相対化して捉える認識論は,さらに一段メタレベルから基礎づける“超メタ理論”としての機能(方法概念)を備えている必要がある。



2.構造構成主義 そうした枠組みとして構築されたのが「構造構成主義;Structural constructivism」(西條,2005)である(別称,構造構成学;Structural constructology)。藤原(2008)はニュートンの『プリンピキア』について次のように述べている。

「微分法ではフェルマー,積分法ではワリス,両者の関係についてはバロー,という手本があった。力学については,運動の三法則のうち,二つはガリレイのものだし,天文学においては,二十二年間にわたる超人的観察と,信じられぬ洞察力により見出された,ケプラーの三法則があった。独立した三分野,数学,力学,天文学のそれぞれにおける諸成果を,完全無欠な有機体として統一したのが『プリンキピア』である」。

レベルはまったく異なるが,これになぞらえれば「認識論や現象学ではフッサールと竹田青嗣,存在論ではロムバッハ,記号学ではソシュールと丸山圭三郎,構造論と科学論は池田清彦といったように,現象学,存在論,認識論,記号学,構造論,科学論,といったそれぞれの領域の諸成果を人間科学の原理足る有機体として統一したのが『構造構成主義』である」,ということができる。それは存在論,認識論,記号論,構造論,科学論といった個別の領域を,「現象」「構造」「関心相関性」といった概念で一貫性のある形で基礎づけ,人間諸科学の原理にまで創発した枠組みなのである。 

 では,構造構成主義は,先に触れた共約不可能性の難問――異なる認識論は共約不可能なため相容れない認識論を併用することはできない――を解消しうる理路をどのように担保しているか簡潔に論じてみる。ここは従来の認識論は現象に立ち現れた「構造」として位置づけられる。

ここでいう「現象」とは「立ち現れ」のことを指し,そこには「外部世界での出来事」も「言説」も「夢」も「幻想」「妄想」といったことも内包される。今目の前にこの抄録があることそれ自体は夢かもしれず,夢ではないと思っていても夢だったということがあるように,我々人間が自分の外に出ることができない以上,原理上はその真偽を判定することはできない。しかし,そのように立ち現れているということはさしあたって確かなであることから,「現象」(立ち現れ)に,外部世界の出来事も,心的な事象も包含されうることになる。

また「構造」とは実体的な概念ではなく,「コトバとコトバの関係形式」のことである。たとえば「客観主義」は「我々の外部に独立自存する客観的世界が実在する」というコトバとコトバの関係形式からなる構造であり,社会的構築主義は「現実は社会的に(言語により)構築される」という構造(根本仮説)ということになる。

関心相関性とは「存在,価値,意味といったあらゆることは身体・欲望・関心・目的といったことと相関的に(応じて)立ち現れる」という原理である。この観点からすれば「客観主義」「社会的構築主義」といったあらゆる認識論は,根本仮説として目的に応じて有効と考えられる枠組みを選択すればよい,ということになる(認識論の関心相関的選択)。こうした理路により共約不可能性の難問はクリア可能になる。

さらに構造構成主義は,構造構成的-構造主義科学論という人間諸科学を基礎づける科学論も備えている。また質的研究のメタ研究法(西條,2008)として,さらにそれを一般化したメタ研究法(西條,2009)としても体系化されている。『構造構成主義研究』が創刊され,哲学,教育学,社会学,文学,心理学,歴史学,医学,精神医学,看護学,理学療法,作業療法,質的研究,統計学,実験心理学,実践原理論,障害論,QOL理論,EBM,NBA,ソーシャルワーク,異職種間連携,チーム医療といった数多くの領域に導入され普及しつつあるのは,その原理性ゆえに,ということもできるだろう。メタ理論の基礎づけられる射程は原理性の深度に比例するのである。

以上,渡辺先生が「オーガナイザーの思惑にしたがわなくとも,公然批判してもかまわない」とおっしゃってくださっていたので,その類稀なる度量に甘え,率直な見解を書かせていただいた。当日も建設的で開かれた議論ができればと期待している。


文献

藤原正彦 2008 天才の栄光と挫折――数学者列伝 文藝春秋 pp.27-28

西條剛央2005 構造構成主義とは何か――次世代人間科学の原理 北大路書房

西條剛央2007/2008 ライブ講義・質的研究とは何か ベーシック編/アドバンス編 新曜社

西條剛央 2009 看護研究で迷わないための超入門講座―研究以前のモンダイ 医学書院

Watanabe, T. (2009). Metascientific foundations for pluralism in psychology. New Ideas in Psychology, in press.





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Last updated  2009/10/21 02:11:16 AM


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