猫の出てくる映画
≪ 巴 里 の 空 の 下 セ ー ヌ は 流 れ る ≫ワン エピソードペ リ エ ば あ さ ん と 猫 た ち,猫たちのミルク代さえなく… ペリエばあさんは、屋根裏でたくさんの猫と暮らしている。次の年金が入るまで、まだ二週間もあるのに、お金も食べるものも底をついてしまっている。もちろん猫たちにやる餌もない。ごみ箱あさり後のノラ猫のほうが、よほど幸せそうにみえてしまう。ペリエばあさんは自分の猫たちにいう、「おまえたちの餌が空気だったらいいのにね」街へ出て、何とかお金の工面をしようとするが、みんなつれない。金持ちそうな紳士や淑女さえ、猫のミルク代わずか64フランを恵んではくれないのだ。 なんとなく気になるのは、八百屋のおかみさんが店先で、ダンナの目を盗んで七歳の娘のポケットにお金を押し込んだシーン。「帰りにミルクを買ってくるんだよ」別に、それ以外何もいってないけれど、なんか期待してしまう。おかみさんは、64フランを貸してくれとペリエばあさんにいわれて、ツケがたまっているから、と断ってはいるのだが…。∞ ∞ ∞ この半世紀も前につくられたモノクロームの名作映画、《 巴里の空の下セーヌは流れる 》は、プロバイダーが無料で提供してくれている。パソコン画面でいつでも見られるという気楽さに見はじめたのだが、じつは、全部見おわるのに、何日もかかってしまった。見始めてしばらくすると、用事ができたり眠くなったりで、いったん一時停止や停止のボタンをおす。しかし、次に続きを見る時は、最初から見直さなければならなかったからだ。早送りのボタンがみつからなかったばっかりに。 ゆるやかにはじまる、パリのたたずまいと登場人物の紹介。ペリエばあさんたちのほかに、鋳物工とその家族や友人、地方から出てきた二十歳そこそこの娘とその友人、その友人の恋人の医者、そしてモンマルトルの屋根裏に住む孤独な彫刻家…。どうやらこの彫刻家が殺人鬼らしいのだが、それぞれのエピソードが見え隠れしながら、どう本筋に結びついていくのか、皆目わからないまま、また最初にもどって見直す。復習するので、登場人物の顔や名前、おかれた情況だけは、はっきりしてくる。そんななかで、ペリエばあさんと猫たちが最後にどうなるのか、せめてそれだけでも知りたいと思うようになった。いつのまにか、それこそが、この映画をあきらめないエネルギー源になっていたのである。 そしてついに、偶然、早送りのボタンを表示する小さなボタンを発見。今まで見たところは、五倍速で飛ばして、ようやく、この物語の全容をつかむことができたのだった。最初、ばらばらに見えた個々のエピソードが、それぞれ伏線をもっていて、見事にみんな本筋とかかわりあっていたのである。見ごたえ十分、名作といわれる所以がわかった。 ∞ ∞ ∞ それでは、お目当てのペリエばあさんと猫たちはどうなったか。 ペリエばあさんは、ひょんなことから、八百屋の母娘に感謝されるところとなり、大きな胸のおかみさん一抱えの、ミルクや肉などをプレゼントされるのである。