|
カテゴリ:アメリカよもやま話
ソンさんは美容師だ。
もう長い事髪を切ってもらっている。 自宅の一室を改造してこっそりと営業している。 ソンさんは韓国から来た。 お客のほとんどが韓国人だ。 せまい室内にはいつもハングルの婦人雑誌がおいてある。 ソンさんはあんまり英語が話せない。 もう何年も前、それこそ始めて会った時、 「何年アメリカにいるの?」と聞いたがわからなかった。 店で頭にタオルを巻いていたお客さんが通訳してくれる。 「オーオーオー! テン アンド ワン イヤー!」と答えた。 11年もいて、イレブンも知らないのか。すげーな、と思った。 ソンさんには自慢の息子が二人いる。 ふたりともハンサムだ。 次男は自宅でピアノを教えていて、今は東部の音大に行っている。 「寂しいね」といったら、「ヤーヤーヤー」といいながら、 悲しそうに胸のあたりをなでまわした。 ソンさんは子供が大好きだ。 息子達を連れていくと、目を細めて頭を撫で、ちゅーしたりする。 子供達はいつもキャンディをくれるソンさんが好きだ。 何を言っているかよくわからないにしてもだ。 ソンさんは頑固者だ。 息子たちの髪を頼むと、いつも同じように切る。 他の写真を持っていってもダメだ。 「フロント、ロング。バック、ショート。サイド、ショート。 ボーイ、キュート。」とつぶやきながら、髪を切り込んでいく。 おかげで息子たちはいつも同じ髪型である。 ソンさんも負けてはいない。 クリニックの予約取りに四苦八苦していた。そりゃ、そうだ。 2時半に予約を取りたい、というところを 「トェンティサード」なんてどなっているんだもの。 「トゥーサーティ」って言えばいいんだよ、って教えてあげたら、 やっと通じたようだ。 電話を切って受話器を指差し「本当に困ったひとだねー」 というように肩をすくめ、クルクルパーをしてみせた。 あちらには罪はないと思うが? そんなソンさんが最近病気らしい。 一度話したが、「シック、シック」と具合悪そうに言っていた。 私の髪はぼさぼさだ。 他の人に切ってもらうわけにはいかないのだ。 ソンさんのあの時が止まったような美容室で切ってもらいたいのだ。 早くよくなってね、ソンさん。 本日の献立: シェルパスタ&ドライトマト入りクリームソース、冷凍白身魚フライ、 ふかしたさつまいもとかぼちゃ、プチトマト お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[アメリカよもやま話] カテゴリの最新記事
|