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シングル母のアメリカ暮らし

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さく408

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2004.09.14
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南へ下るというレズのカップルと別れ、
私は北アイルランドに向かった。
国境まではすぐである。
北アイルランドはイギリス領なので国が違う。
この領土問題は長年の紛争の原因のひとつにもなっている。


バスの中でまた珍客と隣り合わせになる。
少々みすぼらしい身なりの、少々お酒の入ったおじいさんだった。
やたらと人なつこく話しかけてくる。
アイリッシュ訛りのせいか、欠けた歯のせいか、
半分は何を話しているのかよくわからなかったが、
とにかくあいづちを打っていた。
国境を越え、ある大きな停留所に着いた。
全員一度バスを降りなければいけない。
おじいちゃんの目的地はそこだった。


Belfast行きの切符を買って戻ってくると
おじいちゃんがバスの運転手に何かわめいている。
「いいか。あの女の子は日本から来た大事なお客さんだ。
すごく優しくてかわいい子なんだ。
すごくいい子なんだ。
だから、ちゃんとBelfastまで着けるように、
おかしな目に遭わないように、お前がちゃんと気をつけてやれ。
いいな、わかったな。頼んだぞ」
運転手は苦笑いしながら「わかった、わかった」と
盛んにうなずいている。
他の場所には行きようがないのだ。
だってそのバスはBelfast行きなのだから。


バスに手を振るおじいちゃんに別れを告げて、
バスはBelfastを目指し、走り出す。
急に道路の状態が良くなった。
さっきまでガタガタ道だったのに、新しい舗装道路だ。
イギリスとアイルランドの経済力の差だろうか。


目的地までの長い道のりをぼんやりと窓の外をながめながら過ごす。
のどかな田舎の風景の中に時折政治的なスローガンが現れ、
ああ、ここは北アイルランドなんだなあ、と思い知らされた。
70年代から80年代にかけて激しかった北アイルランド紛争も
私が行った90年代初めには、北アイルランドではほとんどおさまっており
時折小規模なテロ行為が起きるものの、
旅行先としては何の問題もないと聞き、行く事にした。
ここまで来たらどうしても見ておきたかったのだ。


個人的にアイルランドの歴史にとても興味のあった私は
特に現代史に引かれ、いろいろな本を読んだ。
意味もなく危険な所に行くのは良くないが、
一応「ロンドンにいるよりは安全」と言われて何年か経っていたので
とりあえず行くだけ行ってみた。


とはいえ、Belfastに着いた途端、本当に驚いた。
そこら中に警察と軍隊。警官は防弾チョッキを着け、
装甲車がたえずパトロールをしていた。
通りには銃を構えた兵士が、引き金に手を当てながら歩いている。
おもわずギョっとしてコーヒーショップで隣になったおばさんに
「最近何かあったのですか?だからあんなに兵士がいるの?」
と聞いたら、おばさんは笑いながら「ああ、あれはいつもの事よ。
この何年かは小さな爆発はあっても、人が死ぬような事はないわよ。
イギリス本土よりは安全よ。」と答えてくれた。
目の前の光景を見る限り、そうは思えないのだが。


夕方には宿に帰る道の途中で爆発音を聞いた。
皆は一瞬足を止め、振り返り、また何事もなかったように歩き出す。
日常的に慣れっこになっているのだろう。


翌日、そこからバスで1時間のところにある、小さな田舎町に行った。
昔、鉄道再建のプログラムでお金を寄付し、その鉄道のどこかに
私の名前がほってあると言う。写真も送られてきた。
ここまでせっかく来たのだから行ってみたくなった。
小さな、のどかな田舎町。鉄道の駅はすぐ見つかった。
でも夏の間しか走らせていない鉄道のその駅は
9月の初秋の景色の中でひっそりと静まり返っていた。
「うーん、こんなところまで来て、私は何をしているんだろう」と
ちょっとがっかりした。
すると犬を連れたおじさんが私に声をかけた。


「ここで何をしているんですか?」
とても優しい目をした紳士だったので
これこれこういう事情でちょっと寄ってみたんです、と話すと
彼は飛び上がらんばかりに喜び、
「私はその鉄道を管理している人間の一人だよ。
よかったら君のネームプレートを探してあげよう」と言って
事務所のカギを開け、名簿から私の名前を探してくれた。
私の名前が見つかると、次は線路に打ち込んである私のネームプレートが
どの辺にあるのかを調べ、そこまで連れて行ってくれた。
しっかりとそこには私の名前が刻まれており、
私はその線路に座って記念写真を撮った。


くだらないことのようだが、
遠い国の田舎町の1本の線路の上に刻まれた自分の名前。
何だかとてもうれしかった。


帰り道にお腹もすいたので、ランチメニューが表に出ていた一軒のパブに入る。
店は昼時で、客でいっぱいだった。
入り口でどこに座ろうかな、と見渡していると、
カウンターにいる中年の夫婦が手まねきをしていた。
一つ席が空いているので教えてくれたのだ。
運ばれてきたランチを食べながらいろいろ話をする。


こんなにのどかに見えるこの田舎町でも時折銃撃戦や爆発があると言う。
「最も最近では死ぬ奴はいないけどね」と陽気に笑っている。
言われてみれば、確かに所々取り壊されかけたような跡もあった。
日本から来たのか、とニコニコしながら、
「日本語なら知ってるぞ。ホンダ、スズキ、カワサキ、トヨータ」
まあね。日本語には違いないけどね。


ふと笑顔が途切れ、こう言った。「もういい加減にして欲しいよ。
誰も戦争なんかしたくないんだ。仕事があって、ちゃんと生活が出来て
ちょっと酒を飲んだり笑ったりして暮らしていければいいだけなのにさ。」
日本ではそんな事は当たり前の事なのにな、とふと思った。


Belfast周辺で過ごし、旅の終わりを再びDublinで迎えるため、
電車にのって、移動した。
いろんな人に会っていろんな話が出来た。
初めての外国旅行だったけど、怖い思いもせず
楽しい思い出がたくさん出来た。
日に焼けてしわくちゃになったお年寄りの笑顔や
ちょっぴり警戒心が強く、でも人なつこいおばさんたち。
物珍しげにじろじろ見て話しかけようとする田舎の子供たち。
バスを停め、我が物顔で道を渡る羊や牛。
音楽のような響きのアイルランド語。
耳に心地よく響いたパブでの演奏会。


ずっとずっと旅を続けていけたらいいのにな。
いろんな人に出会って、新しい発見があって。
でも戻る所があるからこそ、人は旅に出られるのだろう。
いや、たとえばどこにも行かなかったとしても、
人というのはいつも終わらない旅を続けているようなものかもしれない。
そんな事を考えながら、緑の島を飛び立った。


きっとこれからも私は心の中で、
ずっとこの島の旅を続けるかもしれないな、と思いながら。





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Last updated  2004.09.14 14:31:08
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