シングル母のアメリカ暮らし

カブスカウトのアクティビティの一つに
Pinewood Derbyというものがある。
長方形の木片をけずったりヤスリをかけたりして
レーシングカーを作り、速さを競い合うのだ。
とは言ってもなかなか本格的な作りのものも多く、
ただのおもちゃレースではないのだ。
レースそのものも、コンピューターで、
0.000秒 の単位まで争ったりするのである。


車本体の規格設定もなかなかうるさい。
長さは何センチ以内、
重さは何グラム以内、というように
かなり厳しい規定があり、
それを計ることをWeigh-Inという。
Weigh-Inでエントリーしたあとは
当日までスカウトのメンバーが保存し、
ズルなどを出来ない仕組みになっている。


先月のある土曜日に
それぞれのグループごとの予選が行われた。
今年、なんと長男と元夫がつくった車が
予選で勝ち抜いて、
本戦に出られることになったのだ。
はじめてのことで長男は興奮している。


夕べはその本戦のWeigh-Inが行われた。
本戦は今週の土曜日に行われるのだ。
今週は元夫が出張でいないので、
私がかわりに連れて行ったのだ。
私以外はほとんど「お父さん」が連れて来ていた。


本戦のWeigh-Inはことのほか厳しく、
多くの人がその場で重さや長さを調節させられた。
なかには修正に四苦八苦しているお父さんの横で
ボロボロ大泣きしている子供までいた。
息子のもほんの少し長く、ほんの少し重かった。


「前を５ミリほど削って、下の重りを上に移し替えてください」


ちぇ、簡単にいうなよ。 （涙）


どうしても本戦に参加したい長男は、
一生懸命５ミリぶんを削ったが、なかなかうまくいかない。
私も汗をかきながら手伝った。
私たちが悪戦苦闘しているのを見て、
いつの間にかレースの関係者や他のお父さんが集まっていた。


「ここをこうしたほうがいい」

「あ、このやすりをつかっていいよ」

「重りはこっちに移し替えた方がいいな」


他のお父さんに取って、長男の車は
我が子のライバルだったはず。
それなのに規定範囲内でできるだけ長く、重くなるように
一生懸命調節してくれた。
（その方が速くなるからだ）


１時間もかけてやっと終わり、エントリーも済ませ、
土曜日までその車は保管されることになった。


ペイントもシールも剥げ、
下に格好よく収まっていた重りは
せっかくつけたデザインの上にくっつけられ、
見た目はけっこう無惨な姿になったけど、
私には何より素敵な車に見えた。
終わった時の長男の嬉しそうな顔と、
手伝ってくれた人たちの暖かい笑顔に
とても心が和んだ。


手伝ってくれたうちの一人は
長男にそっとささやいた。
「君のこの車、けっこういい感触があるんだよね。
きっと速いと思うぞ。
土曜日が楽しみだな。」
そういって長男の方をポンとたたいた。


こんな時間が持てたなら
レースなんて勝っても負けてもいいや、
と母は思うのだった。


たぶん長男は勝ちたいだろうけど。（笑）