大学はレコードを買い漁る事に明け暮れたまま卒業してしまった。学生にしては考えられないぐらいの大金と時間を費やして集めたレコードだったが、革命的に優れた作品に出会うこともなかった。80年代という一つのジャンルが終わり、90年代というもう一つのジャンルが出現したにすぎなかった。時代の変化はごく僅かだったに違いない、大きく流れが変わったわけではなかったはずだった。しかし90年代の訪れとともに、レコードへの興味は薄くなってしまった。レコードからCDに時代が変わっていったことも気持ちが離れていったことの一つかもしれない。もともと音楽にすがっても感じ取るだけの感性がなかったのかもしれない。そしてある日突然、筆者のレコード収集人生は終わってしまった。結局レコード集めは一時の熱病にすぎず、筆者の人生までも変える事はなかった。ただ、それからの生活は心の中心が欠落したままだった。熱中するものを持たないまま将来がどうなるかなど誰に聞いても答えが返ってくることなどなかった。そのままレコードを買い続ける生活を成り立てさせればよかった。筆者以外のレコード収集家だったら即答することだろう。
無情にも月日は流れた。無我夢中で通ったお滝橋通りを歩いてみる。ダイカンプラザは昔のままだし、汚いレコード屋もまだ残っているようだ。まだ時間が早いせいか公園の周りにはお客と思しき人達の姿はなく代わりに浮浪者が風景に溶け込んでいた。見かけによらずレコードに詳しい新宿レコードのオバちゃんはいなかった。早業を駆使してジャケットをチェックしているマニアはまだ居るのだろうか?ピンクのレコードジャケットにVINILとプリントされている看板の老舗から出てくる若者とすれ違った。「またもどってくるか?」と聞かれたような気がした。
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