ルームメイト物語-サウジアラビア人編
まず、サウジの留学生たちはみんなお金持ちだ。というか金持ちの息子ばかりだ。いくら台湾や韓国からの学生も比較的家庭が豊かだといっても、サウジの学生には勝てないだろう。留学生をルームメイトにと言っても、ヨーロッパ系や中東系などの学生を取るほど勇気があった私たちじゃない。日本人、韓国人と聞けば安心する小心者の私たちだった。でもルームメイトは多ければ多いほど良い。それに来るものを拒むほど贅沢の言える状況じゃなかった。そんな中、家の中がいきなり国際色豊かになったのはこの時。先日話した日本人の男の子Sと私たちだけだったこの家にいきなりフランス人の女の子が入ってきて、そしてこのサウジの男の子も入ってきた。彼は、確かまだ10代。背が高く、見た目は結構良かったかも。ただとってもOutgoingに見える彼にちょっと不安を感じたパパは、この家ではパーティは絶対禁止、タバコは外でと言うことを約束させた。「OK,OK」と気軽に言う彼。これさえ守ってくれれば、結構楽しい生活になるんじゃない?と思っていた。さて引っ越してくる彼の荷物運びをパパが手伝っている。その家具の多いこと!全部持っている感じだ。何も持ってないフランス人の彼女には余分にあるマットレスを布団やシーツと一緒に貸してあげていた。とにかく気前は良い。私たちにも「自分のものみたいに使ってよ」と言っていた。そのサウジの彼、その約束をした数時間後に約束は破られた。荷物をある程度整理して出かけた彼。私たちも外出していたが、部屋に戻った。隣の彼の部屋からタバコの臭いがする。悪いと思ったが、ドアを開けて見ると中からすごい臭い。さっきまで吸っていたようだ。これにはちょっと嫌な予感。パパが彼が帰ってくるなり、「タバコは外で吸うって分かってるよね」と念を押した。彼は「Of course」と言う。「部屋からタバコの匂いがしたんだけど」「I don't know. I didn't smoke in the room. It's not me.」肩をすくめて平然と言う。でも見たわけじゃないから、その話はそこで終わった。そして翌日の朝。バスルームから煙が。パパがすかさず彼に文句を言った。彼はトイレに入るときは絶対吸わないとダメなんだと主張したけど、一人だけ例外を作るわけにはいかないと話し、彼ももうしない、と約束をした。彼は謝るときは本当に悪かったと言い、後に引くようなことがないので、パパもそこが気に入っていた。彼はとっても明るいので、どうしても静かになり勝ちなアジア人の家の雰囲気をすっかり変えてくれた。これは助かった。アジア人に混ざってたった一人フランス人はきっと居心地悪かったかも知れないのだ。サウジの学生が来たことで、彼女も結構楽しそうだった。この彼の悪いところは何でも「OK」と言うことだった。とにかく何でもOK。意味が分からなくてもとりあえずOKと言ってしまう。そしてある日、電話のBillを受け取りながら大興奮で怒っている。パパが何事かと聞いたら、電話のBillのなかでオプションだけで60ドルもチャージされていると言うのだ。内容を見て彼に確認をする。彼は「こんなオプションは知らない、申し込んでない」と言う。アラビア語のサービスはないので、パパが韓国語のサービスに電話をして、彼のアカウントについて問い合わせてみた。そうすると、最初に電話のラインを引くときにすべてのオプションを申し込んだことになっている、と言う。その話をして彼は「あ~、そのとき早口のアメリカ人がよく分からないことずっと話してるから、面倒くさいから全部OKって言ったんだ」と思い出したように言った。ずっこけそうになった。いくら分からないからって、こんなに無防備な留学生をはじめてみた。これも金持ちぼっちゃんのせいなのだろうか。その後も彼は携帯を持ったら、自分の自宅の電話番号と同じにするんだ、車のナンバーは電話番号と同じにするんだ、などなど「夢」を語ってた。それも全部お金がかかるんだよ・・・。でもそんなことは気にしない様子。彼は気前も言い分、気性も激しかった。家には犬が2匹いるが、「自分の家にも犬いるんだ」と言いながら特にちびの犬の方をかわいがってくれていた。そして、ある日そのチビHerculesが彼のソファーを汚してしまった。何で汚したかははっきり覚えてないけど、とにかくしみを作ってしまった。それを見つけて、血相を変えて彼はパパに怒鳴り込んできた。もちろんこれは飼い主である私たちの責任。彼が怒るのは当然。なので、「悪かったよ、すぐきれいにするから」と謝ったのだが、彼の怒りはおさまらない。「元のようにきれいになるもんか!」と言いながら「Your f○○○ing stupid dog」その他もろもろのFワードを並べた。パパは犬をこよなく愛している。その「F○○○ing Stupid Dog」でパパもプツン。二人は大声でのけんかになってしまった。彼のこのソファーの怒りに対して、パパは日ごろ我慢していた彼の自分勝手な行動や守らない約束に対しての不満が爆発。彼は「I'm going out」と言った。パパは「Fine」と言った。結局彼は4日間だけのルームメイトとなった。ルームメイトはたくさんいたけど、こんなに短いルームメイトは彼が最初で最後だ。次の日には彼はアパートを見つけてきた。共同生活は無理だと思ったんだろう。一人で住むアパートを見つけ、引っ越すことになったが、ここでまた問題が生じた。まだカリフォルニアの免許証を持っていない彼、トラックをレンタルしようと思ったが、できないのだ。ここに移ってくるときはそのときの知り合いだか友達が手伝ってくれたが、今回は頼めないと言う。仕方なくパパが借りてやることになった。そして引越しの手伝いもすることになった。彼はやっぱり気前が良いと言うか・・・。必要なもの、大きなものだけさっと荷造りすると、「後残ったものは使うなり、捨てるなりしてくれ」と言った。おかげさまで食器と色々使わせてもらったけど、困ったのはイスラム教の人が祈るときに使う絨毯みたいな布。(名前知らない)これだけは取りに来るだろうと思ったらそれさえ取りに来ない。電話では「分かった、後でとりに行くよ」と言っていたが結局彼は来ることはなかった。でも捨てることもできない。なんだか宗教のものなのに、捨てるのは大変ばちあたりだと思うからだ。そして今でも家のどこかに眠ってる。この彼、引っ越す前の晩もパパに硬い握手をしながら、涙を浮かべて「全部俺のせいだ。気分の悪い思いをさせて本当に悪かった。短かったけど楽しかったよ」と言っていた。本当に良いやつなのか悪いやつなのか分からない・・・。でも確かなことは悪気がないのが一番困ると言うことだ。