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2023.10.07
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カテゴリ:読んだ本いろいろ

『あわれ彼女は娼婦』

のモデルになったといわれている実在の事件

『​ラヴァレ家のジュリアンとマルグリット​』

をモチーフに、2015年フランスで製作された映画、

邦題『​禁断のエチュード マルグリットとジュリアン​』

国内でDVD化はされていないようですが

各社がネット配信しているみたいで、​アマゾンプライム​で視聴できました。


風景描写がとても美しいです

(ロケ地はノルマンディー? ブルターニュ地方でしょうか)。


誰も幸福にならない、

行き着く先は『破滅』と『死』しかない禁断の兄妹愛ですが、

主人公のふたりが

いかにも世間ずれしていない、若い綺麗な人たちなので、

共感してしまいます(悲恋ものはこうでなきゃ)。


純粋で、悪意などみじんもないのに

禁じられた愛を止められなくて、周囲の全員を不幸にしてしまうやるせなさ。


地方領主の広大な敷地の御屋敷で、仲良しの兄妹として育った

ジュリアンとマルグリット。

思春期にさしかかるころ、

ジュリアンは長兄とともに親元を離れて寄宿学校で学ぶことになり

(17世紀当時の貴族の日常?)

屋敷に残されたマルグリットはジュリアンの帰りを待ち続ける。

イタリア、イングランドおよびパリと各地で学び成長したジュリアンが

帰宅したとき

マルグリットも美しく成長し、降るような縁談になやまされていた。


長い歳月を経て再会したふたりだったが
幼いころの恋のめばえは消えるどころか
いっそう激しく燃え上がる。
ふたりの関係を危惧した両親と神父は、マルグリットの結婚を急かせるのだが。

べつに虐待とか歪んだ幼時体験があるわけでもなく

むしろ恵まれた環境で両親の愛に包まれて育ったのに、

運命的な背徳の道をえらばざるをえないふたり。

ジュリアンの勉学中という理由で強制的に長年距離をおかれても、

愛情深い両親や上のお兄さん(この人が家督を継ぐ立場だと思う)

も、ふたりの絆のまえに全く無力でしかない、

それがかえってなんとも切なく、観る者の胸をうつ。

周囲にすすめられるがままに、
親子ほど歳の離れたお金持ちの役人と結婚するマルグリット。

しかし彼女は頑として夫婦生活を拒絶、

忠実な乳母を介してジュリアンとかわす愛の往復書簡だけが生きる支えとなるが。


マルグリットがヒロインなので彼女に同調するつくりになっていますが

この下りはいただけない、

意に沿わぬにせよ結婚を選択したからには相応の覚悟は必要で

自ら夫との関係を悪くしてどうする・・・という感じですかね。

禁断の愛に生きるふたりはともかく

無関係な夫まで不幸にしなくていいのに(苦笑)不幸にする、

いっそ結婚などせずに

ほとぼりがさめるまでふたりで広大な領地の僻地にでも

身を隠せばよかったものを・・・

と余計なこと考えるのはトシのせいでしょうか。

17世紀の時代、女性が生きる道は結婚して嫁に行くしかなかったのですね。

ジュリアンの手引きで婚家を脱出するマルグリット、

怒り心頭の夫はふたりを不義密通と近親相○で告訴する

(この時代だと、近親相○は斬首刑?)。

嘆き悲しみながらも、愛する息子と娘の味方となる母は

ふたりをそっと逃亡させてやるのだが。

・・・どうにも、衝動的・無鉄砲で計画性の無い人ばかりなのは困る、

だから視聴者の胸をうつのかもしれませんが、

遠方に逃げるにせよまず、きちんと逃亡計画たてなきゃ。

資金だって必要だろうし、

そこはお母さん、年の功で助言してあげないと。

鳥かごをあけるように、いきなりひな鳥を野に放ってどうする??
・・・夫も、死罪になるとわかっていて

新妻とその兄を告訴するのはちょっとやりすぎな気が(甘い?)

二人の実家は貴族で資産家なんだから結婚不履行で

ごっそり慰謝料まきあげるくらいにすればよかったのに

(と、現在の基準でものを考えるのも、野暮になるのでしょうね)。

むしろそのくらい、夫がマルグリットに惚れぬいていた

という描写があれば彼の怒りにもっと深みが出たような

(どちらにせよ、この人はかわいそうです)。


絶望的な逃避行は激しい愛に満ちたつかの間の時間でもあった
(この状況は『テス』のラストシーンに似てるなあと)。
イギリス海峡を目前にした海岸で司直に逮捕されるふたり。
すでにマルグリットはみごもっていて・・・

基本的に、登場人物に悪人は誰もいないのに

全員が不幸になる、

それが禁断の恋の結末なのでしょうか。


もちろん21世紀現代では、少なくとも先進国では

兄妹や姉弟で恋愛したからといって罰せられることはないでしょうが、

遺伝子の問題もあり、

社会的に認められる関係でもなく

禁忌には違いありません。


『あわれ彼女は娼婦』では
主人公たちの唯一の理解者というべき恩師である修道士に
ジョバンニが実の妹を愛する苦悩を告解しますが、
修道士もさすがにこの愛を祝福できない、
ふたりのあいだに距離を置きなさい。
忘れるよう努めなさい。

他の異性を愛しなさい。

としか助言できず、
これは現代のカウンセリングでも同様なのではと思います。

それでも、

禁断の愛を断念できず成就させることで

茨の道を歩まねばならない人も世の中に決していないわけではない

であろうことを思えば、

自分や自分のまわりが、今まで

そのような事例と無縁できたことは

ほんとうに幸運だと実感せざるをえません

(決して性的マイノリティを差別する意図はございません)。

・・・ふたりが処刑されたあと、

ぶじ生まれた赤ちゃんをナースからひきとり

馬車で領地へともどってゆくお父さんとお兄さん。


監督やプロデューサーは

忘れ形見である赤ちゃんに悲劇の中の救いを見出したのでしょうか。


たぶん幼き日のジュリアンとマルグリット
同様、
祖父母と伯父の愛情をいっしんにうけて育つであろうことは

不幸中の幸いですが、

いずれ成長して自分の出生のひみつを知ったら、

罪のない子まで気の毒なことになりそうで、

決して無条件によろこべない、

前途に暗雲とかすかな希望が交錯する未来。

・・・17世紀々

とくりかえしていますが(笑)、

映画のオープニングにはヘリコプターが登場、

自動車やふたりを追う制服の警官、

さらに登場人物たちの衣装はどうみても20世紀後半

(幼き日のジュリアンはマルグリットのポートレートを折りたたみ式カメラで撮影)

これは非日常感・非現実感

で視聴者を夢心地にさせる

演出効果なのでしょうね。


シャトーと森や草原、疾走する馬、

枯れ葉舞う木立や海岸など

フランスの地方の風物の撮影が美しく、

映像美きわだつ為にいっそう、恋愛悲劇の索漠感が後を引きます。

佳い作品観ることができました。

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Last updated  2023.10.15 10:00:00
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